「私に何かあった時のために、身軽になっておきたいんです」。近年、おひとり様から終活の相談を受けるなかで、この言葉を耳にする機会が増えました。遺言書や財産の承継については準備を始めていても、お墓の承継まで考えている方は決して多くありません。後継者がいないため、自分で先祖代々の墓を閉じなくてはならない――そんな墓じまいを検討した56歳男性の相談事例を通して、おひとり様時代のお墓との向き合い方について考えます。
「もしこのまま帰ってこられなかったらって、不安になったんです」――おひとり様を満喫する56歳男性、がんが見つかり墓じまいを決意【終活支援専門の行政書士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

代替わりして新しくなった住職から、離壇料の話が出てしまった

遺言書・財産管理・死後事務委任などは自分が動けば解決できる問題ですが、お墓については「寺院」という相手方がいる事柄です。「お盆のときに整理してみよう」そう思って先送りにしている間に、どんどん動きにくくなることもあります。また、現在の住職との関係が良好でも、代替わりによって新しい住職から厳しく言われてしまった、というケースもあります。

 

健さんのお墓があるお寺は、これまで年配の方が住職を務めていたのですが、最近になって代替わりがあり、30代の方が住職を務めることになりました。これまでの住職は離壇料を請求しない方針でしたが、新住職に代わってからは、「墓じまいの際には離壇料について相談させていただく」という方針になったそうです。健さんも、新住職から離壇料についての案内があったと話してくれました。

 

離壇料には法律で定められた金額があるわけではありませんが、改葬許可申請時に寺院(墓地管理者)の印鑑が必要となる場合や、墓石撤去の際に境内地に入る必要が出てくる場合もあります。そのため、墓じまいの際には寺院の承諾が必要となります。その承諾に対する対価として離壇料が求められるのですが、これまでの関係や地域性、護持会費・寄付の状況などを踏まえ、お互いに話し合いながら決めていくかたちとなります。

 

だからこそ、寺院との関係が良好なうちに、ご住職から墓じまいについて承諾を得て、行動に移すことが重要なのです。

 

今回のケースでは、行政書士である私が新住職に連絡を取ったところ、「離壇料についてはあくまでご相談させていただく場合があるというご案内だけで、健さんの場合は先代からの関係性や管理料をしっかり納めてくれていた信用があるため、離壇料は不要です」という回答が得られました。

 

長年放置してしまうと実際に離壇料を請求されてしまう可能性があるため、現在の状況を整理・把握して、タイミングが良い時期に墓じまいを行うことが重要と言えます。

 

「早く相談して良かった」──健さんが最後に話してくれたこと

改葬が無事に終わった日、健さんはこんなことを話してくださいました。

 

「がんになったときは、自分が亡くなった後のことばかり考えていました。でも、一つずつ整理していくことで、不安が安心に変わっていきました」

 

「実家のお墓のことは、何年も心に引っかかっていました。親に申し訳ない気持ちもありましたが、寺院に直接連絡するのは抵抗感があったんです。今回、病気のことがきっかけで、手遅れになる前に専門家に相談できてよかったです」

 

今回の健さんのケースでは、離壇料を請求されることなく墓じまいを進めることができました。しかし、なかには高額な離壇料や墓石撤去費用を請求されてしまうケースも見られます。実際に高額な費用を支払ってしまう前に、家族や友人、専門家などに相談してみることが重要です。

 

 

伊藤 昌陸
AOMA行政書士事務所
代表