不動産売却時に、業者が「直接買い取り」を勧めるケースは少なくありません。現金化までのスピードが速く、一見すると顧客の事情に寄り添った提案のように思えますが、そこには業界ならではの“裏事情”が潜んでいるようで……。84歳女性の事例を通して、不動産売却で見落としがちなポイントをみていきましょう。
「すぐ現金化できるなら…」入居金1,000万円・月額30万円の老人ホームに入居したい【貯金2,000万円】子のいない84歳叔母の危うい決断。55歳甥の介入で〈叔母の自宅マンション〉が1億円で売れたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

子のいない叔母が選んだ「高級老人ホーム」

「施設に入ることにしたの」

 

都内で一人暮らしをする叔母・由美さん(仮名/84歳)からの電話に、荒井さんは少しだけ胸騒ぎがしました。

 

子どものいない叔母にとって、甥の荒井さん(仮名/55歳)は唯一の身内です。転勤で地方に住んでいるため、顔を合わせるのは数年に1回程度ですが、両親を早くに亡くした荒井さんにとっても、由美さんは小さいころから可愛がってくれた親代わりの存在でした。

 

由美さんは現在、30年前に購入した都心のマンションで、年金と貯蓄で慎ましく暮らしています。12年前に夫に先立たれたあとも、由美さんは「あなたには迷惑かけたくないの」「自分のことは自分でなんとかするから心配しないでね」と常々口にしていました。

 

ところが、最近は足腰が弱り、買い物に出かけるのも負担になってきたとのこと。そこで、友人が入居する有料老人ホームに入ることにしたそうです。離れて暮らす荒井さんにとっては安心できる話でしたが、大手介護事業者が運営するその施設はたしかに評判はいいものの、費用が高額になりそうなのが気になりました。

 

「叔母さん、入居費用はどうするつもり?」

 

そう尋ねると、由美さんは自宅を売却して費用を工面するつもりだと答えました。由美さんには年金のほか、亡き夫が遺した預貯金が約2,000万円あり、いまの暮らしに不自由はありません。

 

しかし、希望する施設は入居一時金だけで1,000万円。さらに毎月の利用料は30万円と、貯蓄だけではとても足りないため、なじみの金融機関に相談したところ、「自宅を売るのも選択肢のひとつですよ」と系列の不動産業者A社を紹介されたそうです。

不動産業者が勧める「買い取り」

A社の説明によると、売却方法には「仲介」と「買い取り」の2種類があるといいます。仲介は、不動産会社が買い手を探し、成約した際に手数料を支払う方法。買い取りは、不動産会社が売り手から直接購入する方法です。物腰の柔らかいベテラン担当者が、由美さんに強く勧めたのは「買い取り」でした。

 

「施設への入居を急がれているなら、買い取りがお勧めですよ」

 

担当者がいうには、買い取りは現金化までの時間が短く、荷物の処分も業者側で対応できるとのこと。仲介の場合は、買い手が見つかるまで数ヵ月かかることもあり、値引き交渉や売却後の不具合対応など、高齢の由美さんには負担が大きいそうです。