持ち家はあるものの年金だけでは生活が苦しく、老後資金の不安から「リバースモーゲージ」を利用する高齢者たち。自宅を活用できる安心の制度に見えますが、思わぬ落とし穴に直面するケースも少なくありません。ある母娘の事例を通して、制度の隠されたリスクや家族を守るために知っておくべき注意点を解説します。
「母は騙されたんです」48歳ひとり娘、怒りの訴え。〈年金月12万円〉72歳母、〈リバースモーゲージ利用〉の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

「これで安心」のはずが…4年後、突然届いた一本の通知

「母は制度をまったく理解しておらず……騙されたようなもんですよ」

 

高橋由香さん(48・仮名)の母・節子さん(72・仮名)は、10年前に夫を亡くし、郊外にある築35年の木造戸建てで一人暮らしをしていました。収入は老齢年金の月12万円のみ。食費や光熱費などをやりくりしても毎月数万円の赤字となり、そのたびに貯蓄を取り崩して生活していました。

 

厚生労働省『2025年(令和7年)国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯のうち「単独世帯」は半数以上の53.2%を占め、そのうち62.4%が女性です。また、公的年金を受給している高齢者世帯の41.3%が「総所得の100%が年金」という状態にあり、日々の生活を「苦しい(大変苦しい21.0%・やや苦しい31.1%の合計)」と感じる高齢者世帯は52.1%に上ります。

 

節子さんのように、限られた年金だけでは日々の生活費を賄えず、生活の苦しさから将来への不安を抱えながら貯蓄を取り崩す高齢女性の一人暮らしは、決して珍しいケースではないことがデータからも浮き彫りになっています。

 

転機となったのは、自宅の老朽化です。雨漏りの兆候が見つかり、屋根と外壁の修繕を勧められました。見積額は約150万円。

 

「直さなければ家が傷む。でも、このお金を払えば老後資金が大きく減ってしまう」

 

そう悩んだ末、節子さんが金融機関から紹介されたのがリバースモーゲージでした。自宅を担保に資金を借り、契約者が亡くなった後に自宅を売却して返済する仕組みです。

 

「修繕費も借りられるし、生活費として毎月5万円ずつ受け取れる。返済は亡くなった後だから安心ですよ」

 

そう説明を受け、節子さんは契約を決断しました。契約時、自宅は1,800万円と評価され、融資限度額は評価額の約50%にあたる900万円。修繕費150万円に加え、毎月5万円の生活資金を借り入れる形でやりくりを始めました。娘の由香さんには、「老後資金を少し借りるだけだから心配いらない」とだけ伝えていたといいます。当初、節子さんは「これなら最後までこの家で暮らせる」と胸をなで下ろしていました。しかし、その安心は長く続きませんでした。

 

契約から約4年後、日本では金利上昇局面が続き、節子さんが契約していた変動金利型商品の適用金利も、年1.5%から3%台へ上昇しました。毎月の生活資金を借り続ける一方で、利息も借入残高に組み入れられるため、残高は当初の想定より早いペースで増加していきました。

 

さらに金融機関が実施した定期査定では、人口減少が進む郊外という立地や建物の経年劣化などを理由に、自宅の評価額は約1,800万円から約1,400万円へ見直されました。

 

その結果、融資限度額も900万円から700万円程度へ引き下げられます。修繕費に加え、4年間にわたる生活資金の借り入れ、そして利息の積み重ねによって、借入残高は約500万円まで膨らんでいました。

 

金融機関から届いた通知には、こう書かれていました。

 

「現在の借入残高と融資限度額を踏まえ、新たな借り入れはできません」

 

つまり、毎月受け取っていた生活資金が打ち切られることになったのです。

 

「母は『話が違う』と泣きながら電話してきました。でも契約書を見ると、金利上昇や不動産評価額の見直しによって融資限度額が変更されることも、追加融資が停止される可能性も、すべて書いてありました」

 

由香さんはそう振り返ります。

 

金融機関に契約違反があったわけではありません。しかし、高齢の節子さんにとって、数年後の金利や不動産価格の変動まで具体的に想像することは難しかったのです。