良かれと思った親心が、時に思わ思わぬ溝を生んでしまうことがあります。子や孫を温かく迎えたいという配慮が、知らず知らずのうちに子世代の負担に――なぜ互いを思いやる善意がすれ違ってしまうのでしょうか。ある夫婦の事例を通し、「帰省ハラスメント」について考えます。
「お盆はいつ帰ってくるんだ?」の問いかけに、長男まさかの激怒…〈年金月27万円〉68歳夫婦が知らずに踏んだ「想定外の地雷」 ※写真はイメージです/PIXTA

お盆を待ち続けた60代夫婦

「今年も来るんだから、きれいにしないと」

 

東京郊外に住む佐藤和夫さん(68歳・仮名)は、毎年7月になると決まって庭の手入れを始めます。妻の美智子さん(68歳・仮名)は、客用布団を干し、買い出しに行っては、冷蔵庫に孫の好きなジュースやアイスを並べる――これが、佐藤家の夏の始まりでした。

 

お盆の4日間、長男一家が帰省。その準備は1カ月くらい前から始めるのです。小学4年生と保育園児の孫2人が泊まりに来るこの期間が、夫婦にとって一年で最も楽しみな時間のひとつでした。

 

夫婦の収入は月27万円の年金のみ。手取りにすると23万円ほどです。持ち家でローンの支払いもだいぶ前に終わっています。毎月5万円程度の黒字となり、これが孫出費の原資となります。

 

長男家族はお正月とお盆、年によってはゴールデンウィークも帰省してくれます。孫の顔を見せるのが親孝行と思っているのでしょう。そんな長男家族のためにも、帰省の際にかかるお金は1円たりとも出させないのがポリシーでした。
スーパーでの食材購入は約3万円。外食は1回の帰省で3回ほど行き、約4万円。動物園や水族館、遊園地の入園料、高速道路代、ガソリン代まで含めると、1回の帰省で10万〜15万円ほどかかります。

 

そして帰る前には、孫の手に「お父さん、お母さんには内緒だよ。好きなものを買いなさい」とポチ袋を握らせます。保育園の孫には1,000円、小学生の孫には1万円。これも毎回の習慣になっていることです。

 

長男は毎回、「これ置いていくから」と、10万円が入った封筒を置いていこうとします。年金暮らしの親の負担を考えてのことでしょう。しかし、金銭的な負担から来てくれなくなるほうが嫌でした。

 

「そんな気を遣わなくても大丈夫だから」

 

そう言って、一度受け取った封筒を長男のカバンに押し込む――これも毎回の習慣でした。

 

厚生労働省の「2025年(令和7年)国民生活基礎調査」によると、児童のいる世帯の平均借入金額は1,226.2万円に達し、全世帯平均の362.5万円を大きく上回ります。さらに、日々の生活が「苦しい(大変苦しい・やや苦しいの合計)」と感じる児童のいる世帯の割合は61.5%に上ります。

 

教育費や住宅ローンの負担が重い現役世代にとって、帰省時の出費を負担してくれる親の存在は非常に助かるのが本音でしょう。親に申し訳なさを感じつつも、家計の厳しさゆえに孫への愛情が込められた厚意に甘えざるを得ないのが、子育て世帯の切実な実態といえそうです。