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「親を責めても仕方ない」…自分で返すと決めた日
延滞分は父親が工面して返済し、事態はひとまず収束。しかしAさんは、このままではいけないと考えた。返済口座を自分名義へ変更し、その後は自分で返済を続けることに。毎月の返済額は約1万6,000円。手取り月21万円で東京で一人暮らしをするAさんにとって、決して軽い負担ではない。それでも、「やっと自分の借金なんだと実感できたので」と話す。
「親を責める気持ちも正直ありました。でも、苦しい家計のなかで大学まで行かせてもらったのも事実です。責めても仕方ないという気持ちもあります。ただ、最初から『これはあなた自身の借金なんだよ』って誰かが教えてくれていたら、心構えは全然違っていたと思います」
名義を貸しただけのつもりだった奨学金は、30歳になったいま、毎月の家計に確かな重みとして組み込まれている。
リスクを負うのは名義人である「子ども自身」
Aさんのケースで浮かび上がるのは、「家庭内の約束」と「制度上の責任」のズレだ。日本学生支援機構との契約において返済義務を負うのは、あくまで奨学金を借りた本人である。親が返済すると約束していても、その約束は家庭内での取り決めに過ぎず、延滞した場合に責任を負うのは本人だ。
実際、「返済は親が行っている」という家庭は決して珍しくない。教育費を親が負担する一つの方法として奨学金を活用すること自体は否定されるものではない。問題は、その場合でもリスクを負うのは名義人である子ども自身だという事実が、十分に共有されていないことだ。返済口座が本人以外になっている場合、返済状況が本人から見えにくくなり、異変に気づくのが遅れる可能性もある。
奨学金を申し込む段階で、「これは自分自身が負う債務であり、延滞すれば自分の信用情報にも影響する」という点を、より明確に伝える仕組みが求められている。
救済制度は「延滞する前」にしか使えない
もう一つ見過ごせないのは、救済制度が十分に活用されていない現実だ。日本学生支援機構には、毎月の返済額を一定期間減らす「減額返還制度」や、返済を一時的に猶予する「返還期限猶予制度」が用意されている。Aさんの父のように、一時的な資金繰りの悪化で返済が難しくなったケースは、本来こうした制度の利用を検討すべき場面だった。
しかし、これらの制度は原則として延滞する前の申請が前提となる。経済的に追い詰められたときほど制度を調べる余裕はなく、気づいたころには延滞が始まっている――最も支援を必要とする人ほど、制度にたどり着けないという現実がある。だからこそ重要なのは、借りる段階で「誰が責任を負うのか」を正しく伝えること。そして返済が苦しくなる前に、利用できる支援制度の存在を確実に届けることだ。
Aさんが経験した「知らないうちに始まっていた延滞」は、制度の説明や情報提供が少し違っていれば、防げた可能性がある。奨学金制度に求められているのは、お金を貸す仕組みだけではない。借りた人が最後まで安心して返済できるよう支える仕組みでもある。
大野 順也
アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長
奨学金バンク創設者
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