定年を迎えた途端、かつての肩書や高収入は過去のものとなり、職場でも家庭でも大きな変化を迫られる――。これは特定の誰かだけに起きる話ではなく、多くの人が直面し得る現実です。プライドや過去の成功にとらわれず、新しい役割やマネープランをどう受け入れるべきか、定年後の生き方について考えてみましょう。
「無駄なプライドは捨ててください!」〈年収1,400万円〉だった60歳元部長、20歳下の上司から浴びた屈辱 (※写真はイメージです/PIXTA)

「部長」と呼ばれなくなった日

「高橋部長、こちら決裁お願いします」

 

60歳定年まで、そう呼ばれるのが当たり前でした。高橋健一さん(60歳・仮名)は、都内メーカーで営業部長を務めていました。年収は1,400万円。月収約90万円に加え、賞与は年間320万円ほどありました。自宅は都内近郊の4LDK。住宅ローンは58歳で完済しています。子どもは独立済みで、現在は妻と二人暮らし。

 

「老後資金としては十分だと思っていました。だからこそ、少し働いて社会とのつながりを保てればいい。その程度の気持ちだったんです」

 

前例にならうと、定年を迎える社員の8~9割が再雇用制度を利用し、引き続き勤務を続けていました。実際に継続雇用となった諸先輩を見ると、多くが現役社員のアドバイザー的ポジションになっています。年収も大きく下がると聞いていました。提示された年収は480万円。肩書は「シニアアドバイザー」。部下はゼロ。若手社員と並ぶフリーアドレス席になりました。

 

「まあ、聞いていたとおりだな」

 

そう自分に言い聞かせていた高橋さんでしたが、最初の1ヵ月で強い違和感を覚えます。朝礼で、40代の元部下がこう言いました。

 

「高橋さん、この資料、先方提出前に私の承認を通してください」

 

かつて自分が評価していた部下に、業務の進め方を指示される立場になったのです。収入が減っても、支出はすぐには減りません。管理費・修繕積立金が3.8万円、固定資産税を見据えて月2.2万円の積立て、食費や保険料、交際費など、諸々足していくと34万円。再雇用後の手取りは月約28万円で、毎月6万円以上の赤字です。

 

「退職金があるから大丈夫だろう」

 

そう考えていましたが、高橋さんの妻は夫の定年後の現実に焦りを感じているようでした。

 

「急に『お小遣い、月3万円にしていいか』と言ってきて。突然、節約、節約と言い出しましたよ」

 

厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査』によると、50代後半男性・部長職の平均給与は、月収で66.6万円、年収で1,087.0万円。一方、60代前半男性非役職者の平均給与は、月収で32.8万円、年収で510.8万円です。肩書がなくなることで給与は半減するのが平均値。定年前の役職が高ければ高いほど、定年後の再雇用時に給与が激減するというのが現実です。