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「安い葬儀」が一番高くついた
葬儀が終わっても、支払いは続きます。四十九日法要のお布施が15万円、会食費が18万円、納骨に8万円、墓石への戒名彫刻が22万円。仏壇の整理や遺品処分にも約30万円かかりました。
「どれも『ここは削れません』と言われるものばかりでした。葬儀が終われば一段落だと思っていたのに、請求書は次々に届きました」
葬儀から納骨までに支払った金額は、約215万円に達しました。一方、受け取った香典は十数万円のみです。一般葬であれば、親戚や近所、母の友人などからある程度の香典が集まり、葬儀費用や法要費用の一部を相殺できた可能性がありました。しかし、家族葬では、その「収入」がほとんどありませんでした。結果として、田中さんが自分の預貯金から立て替えた金額は約200万円に及びました。
「『家族葬は安い』という言葉だけを信じていました。実際には、自分の財布から出ていくお金がどれだけになるかまでは考えていなかったんです」
その後、母の相続手続きは進みました。母には約320万円の預貯金が残されていましたが、相続人は田中さんを含む兄弟3人です。預金は遺産分割の対象となるため、喪主だからといって立て替えた費用をそのまま回収できるわけではありませんでした。
「兄弟に『葬儀代をもっと負担してほしい』とは言えませんでした。母を送るために自分が決めたことですし、お金の話で揉めたくなかったんです」
結局、立て替えた費用の一部は精算できたものの、約200万円の持ち出しの大半は、自身の貯蓄で賄うことになりました。
厚生労働省『人口動態統計月報年計(概数)』によると、令和7年(2025年)の死亡数は158万9,489人。過去最多を記録した前年から微減となりましたが、依然として高い水準が続いています。多死社会の一方で、故人も参列者も高齢になり遠方への移動や参列が難しくなっていること、そして前述した「地域社会のつながりの希薄化」も相まって、葬儀の小規模化は今後もさらに進むと考えられます。
しかし、家族葬を選ぶ世帯が増えたことで、「葬儀費用そのものは安くなったのに、香典収入が減り、喪主の実質的な自己負担はむしろ重くなった」というケースも珍しくありません。
家族葬は、参列者が少ない分だけ返礼品や飲食費は抑えられます。しかし、火葬料や安置料、式場使用料、お布施などの固定的な費用は大きく変わらず、さらに香典収入も期待しにくくなります。そのため、判断する際に確認すべきなのは「プラン料金」ではありません。
葬儀から納骨までに総額でいくら必要なのか。香典はどの程度見込めるのか。立て替えた費用を相続時にどのように精算するのか――。兄弟姉妹を含めて事前に話し合っておかなければ、喪主一人に負担が集中するおそれがあります。葬儀の小規模化が当たり前になった今だからこそ、「安い葬儀」という言葉だけで判断しないことが重要です。