老後の不安といえば「お金」が真っ先に挙がりがちですが、『令和7年版高齢社会白書』の調査では、60歳以上の65.9%が現在の経済的な暮らし向きについて「心配がない」と回答しています。しかし、金銭的なゆとりが必ずしも幸せな老後を約束するわけではないようです。事例をご紹介します。
「お金で孫を釣る気はない」年金月35万円・貯金4,000万円の71歳元大企業部長が陥った老後孤立…世界で最も愛する孫と〈絶縁〉のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

大企業を辞めた息子への「見下し」…無自覚が招いた絶縁

現在、妻と二人暮らしのユウジさん(仮名/71歳)には、息子(41歳)が一人と、その息子夫婦間に生まれた小学生の孫が一人います。ユウジさんにとって、孫は世界で最も愛する存在でした。しかし現在、ユウジさんは孫と2年ものあいだ、一切会えていません。原因は、息子との絶縁にあります。

 

かつて大企業に勤めていた息子は、職場の人間関係から精神的に追い詰められ、休職の末に退職を余儀なくされました。その後、大学時代の先輩の紹介で、立ち上がったばかりのスタートアップ企業へ就職。大企業時代のような手厚い福利厚生や高い基本給は当然ありませんでしたが、息子は生活を立て直すために努力を重ねます。

 

自身も現役時代に大企業に勤め、部長職まで昇りつめたユウジさんは、この息子の転機がどうしても許せませんでした。

 

「なぜ我慢して大企業にしがみつかなかったのか」「そんな聞いたこともない会社に勤めているなんて恥ずかしい」「お前は負け犬だ」「いつ潰れるかわからない会社で、家族を養えるわけがない」と顔を合わせるたび、自分の意見をいっていました。

 

現在では息子の会社も事業が軌道に乗り、大企業時代よりやや少ない程度の収入を得られるようになっていました。しかし、ユウジさんはその成果を頑なに認めようとはせず、顔を合わせるたびに「結局はベンチャーだ」「大企業とは格が違う」と息子の仕事や生き方を否定し続けたのです。

 

病を乗り越え、新しい職場で実績を積み上げてきた息子にとって、父親からの度重なる無理解と蔑視は耐えがたいものだったようです。最後、息子から「いくら頑張ろうといまの生活も一切認めず、バカにし続ける父親とは付き合えない」と告げられ、連絡が絶たれました。

 

しかし、ユウジさん自身は自分の言葉が息子をどれほど傷つけたのかに無自覚です。「一方的に連絡を絶つなんて、親に対して不礼な態度をとった息子のほうから謝罪して連絡してくるのが筋だ」と、自分からは連絡を取ろうとしませんでした。

周囲の助言も一蹴…「孫をお金や物で釣るなんてくだらない」

2年間、息子夫婦からも孫からも連絡がないまま月日が流れるなか、妻から「孫が学校で非常に優秀な成績を収めている」と聞いたユウジさんは、孫に会いたくてたまらない気持ちを募らせます。見かねた趣味のサークル仲間が、ユウジさんに歩み寄りのきっかけ作りに向けたアドバイスをしてくれました。

 

「お正月のお年玉や、クリスマス、誕生日にちょっとしたお祝いや贈り物を送ってみたらどうだ? 届きさえすれば、お嫁さんかお孫さん本人からお礼の連絡が来るはずだ。それをきっかけにまた会えばいいじゃないか」

 

しかし、ユウジさんはこの提案を拒否しました。

 

「私は孫に、お金やプレゼントをあげるような真似は絶対しないと決めている。いままで一度もお金や物をあげたことはないが、孫は私にとても懐いていた。お金で気を引くようなことをする必要はない」

 

ユウジさんは夫婦で年金を月35万円受け取り、老後資金としてはまだ4,000万円もの貯金が残っているため、経済的には余裕があります。しかし、ユウジさんのなかでは、「孫にお小遣いやプレゼントを渡すこと=お金で気を引く下品な行為」と考えていたのです。