老後を見据えて広い持ち家を手放し、家賃の安い住まいへ移る「ダウンサイジング」。固定費の削減や身軽な暮らしができる一方、選択を誤ると思わぬ事態に陥ることも。ある65歳男性の体験談をヒントに、表面上の条件やコスト削減だけにとらわれない、老後の住み替えで気を付けるべきポイントを考えます。
「ダメだ、意識が遠のいていく…」年金月17万円・65歳男性〈築45年の公営団地の最上階〉に引っ越して知った「最大の誤算」 (※写真はイメージです/PIXTA)

こんなに広い家、広い庭…必要か?

埼玉県在住の高橋徹さん(65歳・仮名)。会社員として40年近く働き、60歳で定年退職。約2,000万円の退職金を手にしました。住宅ローンは完済済みで、退職金のほかに1,000万円強の預貯金がありました。仕事を辞めても、年金をもらう頃になっても十分な貯蓄があるはず――そう考えて、60歳での完全リタイアを決めました。

 

唯一の誤算は、2年前に妻を亡くしたこと。それでも仕事を続けていたら、一瞬でも夫婦水入らずの時間を楽しむことはできなかったと、やはり後悔はありません。妻を亡くしたあとも、徹さんは築38年の庭付き一戸建てに住み続けていました。

 

65歳になった徹さんの年金は月17万円。月々の生活は、年金で十分に賄うことができました。ただ一人になってみて、住居関連費に疑問を覚えるようになりました。固定資産税は年11万円、火災保険や庭木の手入れ、外壁補修の積立を含めると、住居関連費は年間40万円超。

 

十分な年金も、十分な貯蓄もあります。負担だったわけではありません。しかし、お金をかけるのは自由だが、一人暮らしでこの広い家は必要だろうか。眺めることもない庭にお金をかける意味があるのだろうか――そのような思いでいっぱいになったといいます。

 

「将来を見据えて、生活費のダウンサイジングを進めていたんですが、そのなかでこんなに広い家もいらないという思いに至り、思い切って売ることにしたんです」

 

売却に対して躊躇する気持ちがゼロだったわけではありません。亡くなった妻との思い出も刻まれています。それでもこれから先の生活を優先しました。

 

家を売る一方で、次の住まいに選んだのが、比較的家賃の安い公営住宅でした。

 

「団地出身なんですよ、私。懐かしくなって」

 

入居したのは、昭和56年築の公営団地。家賃は月3万2,000円。4階建ての最上階で、エレベーターはありません。

 

「4階までの上り下りは結構な運動ですね。将来的に厳しくなったら、1階に引っ越せばいいと思っています」

 

内閣府『高齢社会に関する意識調査』によると、単身世帯は他の世帯に比べて住み替えを検討する割合が高く、「意向がある」「将来的には検討したい」と答えた人を合わせると37.7%に上ります。また、住み替えの意向を持つ理由として「自身の住宅が住みづらいと感じるようになったから」(18.9%)や「生活費を抑えたいから」(9.3%)が挙がっており、特に高橋さんと同じ65〜69歳では生活費を理由にする人が11.8%と比較的高くなっています。

 

配偶者との死別などを機に、使わなくなった部屋や庭の維持費を見直し、身の丈に合った住まいへダウンサイジングすることは、身軽な老後を送るための合理的な選択肢といえます。