「子どもが社会人になるまでは離婚しない」――。不和の末に別居を選んだ夫婦が交わした、15年前の約束。ついに次男が大学を卒業し、子育てという名の「執行猶予」が解ける時が訪れました。家計のやりくりに奔走した日々を乗り越え、55歳になった夫が妻と向き合い、出した答えとは? 現代における家族の形を考えます。
「ずっと、別居していたんです」月収58万円・55歳夫、次男大学卒業で子育て終了。15年前に交わした「子が大人になるまでは離婚しない」という約束の“意外な結末” (※写真はイメージです/PIXTA)

子育てが終わり、そろそろ答えを出さないと…

時間は流れます。長男は就職し、次男も大学を卒業しました。15年間続いた教育費の負担がようやく終わりました。55歳になった石田さんの給与は58万円。住宅ローンは完済間近。毎月の教育費がなくなったことで、家計にも余裕が生まれます。

 

「やっと老後を考えられるようになった」

 

毎月数万円ずつ続けてきた積立も、一気に増やせそう。そこで石田さんは、15年前に交わした約束を思い出します。「子どもが社会人になったら、その先をどうするか決めよう」――そこで妻と向き合い、今後について話し合うことにしたのです。

 

ところが、妻の口から出たのは意外な言葉でした。

 

「今のままでいいんじゃない?」

 

一瞬、耳を疑ったといいます。15年間、夫婦は別々に暮らしてきました。それでも、子どもの節目には一緒に立ち会い、必要な連絡は欠かしませんでした。月に数回は食事をともにし、孫の話や仕事の話をすることもあります。

 

「一緒に住むと、お互い相手の生活が気になってしまう。でも、今くらいの距離なら普通に話せるでしょう」

 

妻は穏やかな表情でそう話しました。石田さんも、改めて振り返ります。

 

「いつからか、“別れたい”とは思わなくなった。ただ、一緒に暮らすことは、お互いに向いてないことはわかっていました」

 

不思議なことに、別居してから大きな喧嘩は一度もありませんでした。誕生日には家族で食事をし、子どもたちが帰省すれば、夫婦そろって迎える。それぞれの家に戻れば、自分の時間を過ごす。そんな生活が15年続くうちに、それが石田家にとって自然な距離感になっていたのです。

 

「夫婦は必ず同じ家に住まなければならない、という考え方に縛られすぎていたのかもしれません」

 

かつて当たり前だった「家族は一つ屋根の下で暮らす」という形は、今や少数派となりつつあります。内閣府の『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上がいる世帯のうち、昭和55年に全体の半数(50.1%)を占めていた「三世代世帯」は、令和6年にはわずか9.0%にまで激減。代わって「夫婦のみの世帯」と「単独世帯(一人暮らし)」がそれぞれ約3割を占め、世帯の少人数化が急速に進んでいます。

 

石田さん夫婦が選んだのは、親子や夫婦が別々に暮らす、究極の核家族ともいえるスタイル。物理的な距離を置くことで心理的な平穏を保てるケースもあるでしょう。「同居」という形にこだわることだけが家族の正解ではないようです。