出世には興味を示さず、定時になると静かに帰宅する――。職場では「やる気がない人」「出世に興味がない負け組」と見られがちな54歳会社員。しかし、実はその人が、すでに資産形成を終え、精神的にはすでに退職しているも同然の「隠れFIRE民」だったとしたら――? 辞められるのに、なぜ辞めないのか。50代男性の事例をもとに、会社員という立場の「見えざる価値」について、CFPの松田聡子氏が解説します。
「それでも、私は会社を辞めません」…出世欲も存在感もない54歳平社員、密かに達成した〈資産1億円〉。FIREできるはずが、今日も“8時間労働”を続ける「納得の理由」【CFPの助言】
【FPからのアドバイス】会社員というアドバンテージを手放す前に
亘さんのような「実質FIRE状態の会社員」という生き方は、FP(ファイナンシャル・プランナー)の視点から見ても、理にかなった選択といえます。会社員という立場には、辞めてみて初めて気づくメリットが数多くあるからです。
会社員のメリットとして、まず安定したキャッシュフローが挙げられます。運用資産は暴落すれば大きく目減りしますが、給与は相場と関係なく振り込まれます。資産の取り崩しを始めた直後に大暴落が来れば、回復を待てずに資産寿命が大きく縮むおそれがありますが、給与収入があれば、その局面を「買い増しの好機」に変えることさえ可能です。
また、社会保険があることも見逃せません。会社員の健康保険料・厚生年金保険料は労使折半ですが、退職すれば保険料は全額自己負担になり、厚生年金の上乗せもなくなります。働き続ければ、その分将来の年金額も増えていきます。 そして、意外に大きいのが、社会的信用です。無職の50代と勤続30年の会社員とでは、賃貸契約の審査などでの扱いが大きく異なります。
さらに、所属と役割を失うことによるアイデンティティの喪失は、お金では測れない心理的なダメージになり得ます。 退職したものの会社員に戻りたくなったとしても、50代で前職と同等の条件での再就職は簡単ではありません。
FIREを検討するなら、早期退職という表面的なゴールにとらわれず、経済的自立を「選択の自由」として捉え直すことが大切です。その自由には、会社員を続けるという選択も含まれます。
完全リタイアの前に、以下の4点を確認してみてください。
1)年間生活費を実額で把握しているか
2)収入ゼロでも数年間耐えられる現預金があるか
3)退職後の社会保険料や年金見込み額を試算したか
4)仕事に代わる時間の使い道があるか
今日も亘さんは、定時とともに静かに姿を消します。それは「逃げ」ではなく、長い時間をかけて手に入れた「選べる側」の余裕なのかもしれません。
【出典】
株式会社AlbaLink「FIREに関する意識調査」
https://wakearipro.com/financial-independence-retire-early/
厚生労働省「労働安全衛生調査(令和6年)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_gaikyo.pdf
松田聡子
CFP®
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