定年退職を迎えた後も、再雇用制度などを利用してこれまでと同じ職場で働き続けるケースが一般的になっています。働き手にとっては安定した収入源となり、企業側にとっては人手不足を補う有効な手段です。しかし、この「働き続ける」という実態が、思わぬ税務上のトラブルを引き起こすことがあります。今回は、令和7年7月25日に国税不服審判所(税金に関するトラブルを審査する国の機関)で下された裁決事例をもとに、定年時の退職金をめぐる税務上の注意点と、私たちの生活に与える影響について解説します。
「退職金」のつもりが「ボーナス」扱い!? 定年後に同じ職場で働く人が大損する税金の罠【裁決事例から紐解く税務リスク】 (※写真はイメージです/PIXTA)

審判所の判断…実質的な「契約の変更」があったか

国税不服審判所は、最終的に「病院側の主張が正しく、支払われたお金は退職金として認められる」という判断を下しました。税務署が指摘した通り、確かに外から見た働き方の実態(業務内容や給与水準)はこれまでと変わっていませんでした。しかし審判所は、目に見える働き方だけでなく、その裏側にある「雇用契約の法的な性質」が大きく変わった点に注目しました。

 

具体的には以下の点が評価されました。

 

■無期雇用から有期雇用への切り替え

医師たちはこれまで、いつまで働くか期限が定められていない契約でした。しかし制度改正に伴い一度退職扱いとなり、その後は「1年ごとの契約更新」という新しい契約に切り替わりました。

 

■将来の退職金不支給の明記

新しい契約書には、「今後の契約期間中の職務については退職金を支給しない」ことが明確に記されていました。

 

■適正な手続きの履行

この制度改正が、一部の人の思いつきではなく、理事会や社員総会といった法人の正式な手続きを経て承認されたものであったためです。

 

■継続雇用の合理的な理由

病院がある地域は医師の確保が極めて困難であり、病院運営を維持するためには、どうしてもベテラン医師たちにこれまで通りの業務をお願いせざるを得ない事情がありました。

 

審判所はこれらの事実を総合的に判断し、「働き方は同じに見えても、契約上は以前の勤務関係がはっきりと終了している」として、退職金としての税金ルールを適用することを認めました。

 

この裁決事例は、働き方が多様化する現代において、企業と働き手の双方に重要な教訓を示しています。

 

経営者や人事担当者にとっては、「制度設計と手続きの重要性」が浮き彫りになりました。定年延長や再雇用制度を導入する際、ただ口約束で働き続けてもらったり、契約書を曖昧なままにしておいたりすると、後になって「実質的に退職していない」とみなされ、多額の税金を負担するリスクが生じます。就業規則の改定手続きを適正に行い、新たな雇用契約書において契約期間や今後の退職金の扱いを明確に定めることが不可欠です。

 

一方、労働者にとっても対岸の火事ではありません。再雇用されて今まで通り働く場合、「同じ仕事だから」と契約書をよく確認せずにサインしてしまうと危険です。雇用期間はどうなるのか、賃金体系はどう変わるのか、そして過去の退職金は精算され、今後はどうなるのか。これらの「契約の裏側」を正確に読み解くリテラシーが求められます。

 

「退職金か、賞与か」という違いは、手元に残るお金(資産)の額を大きく左右します。働き方の節目において、自分自身の労働条件と税金の扱いをしっかりと確認することが、自らの資産を守る第一歩となります。

 

[参考資料]

国税不服審判所(令和7年7月25日裁決)