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退職金と賞与における税金ルールの違い
事例の詳細に入る前に、前提となる税金の仕組みを確認します。日本の所得税法では、受け取るお金の性質によって税金の計算方法が異なります。毎月の「給与」や一時的な「賞与」は、原則として金額が大きくなるほど高い税率が適用されます。
一方、「退職金(退職手当等)」は、長年の勤務に対する慰労や、退職後の老後生活を支えるための重要な資金としての役割を持ちます。そのため、他の給与所得と同じように高い税金をかけてしまうと、生活保障という本来の目的が損なわれてしまいます。そこで、退職金に対しては、税負担が大幅に軽くなるような特別な優遇措置が設けられています。
裏を返せば、税務署はお金の名目が「退職金」であったとしても、それが本当に退職金と呼べる性質のものなのか(実質的な退職の事実があるのか)を厳しくチェックします。
今回の裁決事例の舞台となったのは、地方都市にある病院です。この病院では、深刻な人材不足や医師の高齢化を背景に、人事給与制度の改革を行いました。これまで医師には定年を定めていませんでしたが、近隣の病院に合わせて「医師の定年は65歳」とする新たなルール(就業規則の改正)を設けました。
そして、この制度改正の時点で既に65歳を超えていた数名の医師に対し、過去の勤続期間に応じた「退職金」を支払いました。
ここからがトラブルの発端です。退職金を受け取った医師たちは、その後も同じ病院に残り、これまでと同じ役職・業務内容で働き続けました。給与の額にも大きな変化はありませんでした。これに対し税務署は、「仕事内容も給与も変わっていないのだから、従来の勤務関係から離脱したとはいえない。実質的な退職の事実がないため、支払われたお金は退職金ではなく、単なる『賞与』である」と主張し、病院に対して多額の追加納税を命じました。
病院側は「適正な手続きを経て制度を変更し、新たな契約を結び直したのだから正当な退職金である」と反論し、両者の主張は真っ向から対立しました。