相場の追い風に乗って資産を増やした小平さん(仮名)は勢い半分で早期退職・FIREを成し遂げました。ところが、辞表を出した日から、歯車は静かに狂い始めます。狭い部屋に夫婦二人、行き場のない一日。「広い家に移ろう」と臨んだ住宅ローン申請でしたが、まさかの“否決”。「資産は1億2,000万円ある。それでも7,500万円が借りられない」……。ファイナンシャル・プランナーの青山創星氏が、「お金」と「信用」の決定的な違いを解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
銀行員「申し訳ありませんが、ご融資はできかねます」…52歳元会社員、資産1.2億円超なのに住宅ローン審査で“まさかの門前払い”。狭い賃貸で妻と2人「地獄のFIRE生活」のワケ【FPの解説】
FIRE民が「現金で買う」という選択を避けたい切実な理由
とはいえ資産は1億2,000万円超。「キャッシュで買えばいいではないか」と思うかもしれません。しかしここに、FIRE達成者ならではの“それは絶対に避けたい”というジレンマがありました。
FIRE生活において、運用資産は取り崩すための貯金ではなく、「お金を生み続ける装置」です。たとえば、1億2,000円を年5%で運用できれば、毎年600万円(税引前)を生み出し、生活費やローン返済の原資になります。
もし7,500万円をキャッシュで買ってしまえば、運用資産は4,500万円に激減。これを年5%で運用できたとしても、運用益は年225万円。生活は一気に厳しくなります。そのため、キャッシュで家を買うという選択肢はFIRE生活において、現実的ではないのです。
問題はそれだけではありません。小平さんは52歳。年金が始まる65歳まで13年、その間、公的年金は受け取れません。60歳からの繰上げ受給も選択できますが、生涯減額が続くというデメリットがあります。
無職の高齢夫婦の平均的な支出は月およそ30万円(注4)。小平さん夫婦が希望する生活費は月35万円。それなりに高収入だった小平さんの年金は、夫婦の標準的な年金額(月約24万円・注5)より多い見込みですが、それでも月35万円には到底届きません。
ローンの扉が閉ざされ、現金でも買えない。これが、勢いで退職したFIRE後の住み替えに潜む思わぬ落とし穴だったのです。
