新NISAの盛り上がりを受け、「自分も投資を始めてみよう」と考える人は少なくありません。しかし、いざ始めようとすると、「誰に相談すればいいのかわからない」という壁にぶつかります。配偶者は投資に否定的、友人にはお金の話をしづらい、ネット証券も商品選びの相談には乗ってくれない――そんななか、相談相手として生成AIを活用する人も増えています。スマホひとつで気軽に利用でき、どんな質問にも答えてくれる生成AI。しかし、使い方を間違えれば、思わぬ失敗につながることもあります。野際さん(65歳・仮名)は、退職金2,000万円の運用について生成AIに相談するうち、次第に投資判断まで委ねるようになっていきました。その結果、彼を待ち受けていた結末とは――。FPの青山創星氏が解説します。
「相談できるのは、お前だけだ」退職金2,000万円を元手に、投資を始めた65歳元会社員…暴落の夜、必死にすがった“まさかの相手”【FPが解説】
退職金2,000万円、「増やさなければ、減ってしまう」という焦り
野際さん(65歳)は大手メーカーで40年以上勤め、定年退職。退職金は約2,000万円でした。「これで老後は安泰だ」と思えれば、どれだけよかったでしょう。
しかし、テレビでは物価上昇のニュース、ネットには新NISAの広告。退職祝いの席では、同期が「もう証券口座を開いた」と胸を張っていました。「やらないと損だ」という空気に押され、野際さんは投資未経験のままネット証券に口座を開いたといいます。
ところが、何をどう買えばいいのかわかりません。妻に相談すると「投資なんて怖いからやめて」と顔をしかめられ、友人にお金の話をするのは気が引けます。ネット証券には、商品の良し悪しを判断してくれる窓口はありません。
「結局、何をどう選ぶのがいいんだ?」
よくわからないまま、退職の翌年、ネット証券のランキングで上位だった「全世界株インデックスファンド」の積立を毎月10万円で始めました。
上がり続ける相場と、取り残される恐怖。頼りにした相手は…
野際さんが投資を始めた年の始め、世界の株式市場は上昇基調でした。ところが2月になって、ファンドが最高値を更新したことを知ります。本来は喜ぶべきところですが、自分の積立分はまだ20万円。「せっかくのチャンスに、こんなペースでは置いていかれる」と感じ、焦りが芽生えました。
そこで、思い切って成長投資枠いっぱいの240万円を一括投入。積立分とあわせて新NISAに投入した資金は計260万円となりました。大人気のファンドですから、大きなリスクはないだろうと考えたといいます。
ほっとしたのも束の間、その後もファンドは上がり続けます。毎日じわじわ上がるたびに「きのう買わなかったぶん、損をしてしまった」という気持ちがこみ上げてきました。
行動経済学ではこれをFOMO(取り残される恐怖)と呼びます(※1)。人間は「得をしたい」より「取り残されたくない」恐怖に、ずっと強く突き動かされる生き物です。
「まだ銀行口座にはお金がある。でも、今年のNISAの枠じゃ足りない……。来年まで待つべきか、特定口座(課税口座)に入れるべきか」
そこで野際さんが頼ったのが、急速に利用者が広まっていたスマホのAIアプリでした。生活のちょっとした疑問から投資まで、野際さんが何を聞いても即座に丁寧に答え、彼の考えを強く否定することはありません。
その便利さにハマり込みました。周囲には、他に投資の相談をできる相手はいません。いつしか「お前が一番頼りになるよ」と、そうAIに話しかけるようになっていた野際さん。
「NISAだけじゃ足りない。特定口座も使って、全部で1,500万円にしたい。税金は引かれるけど、よい判断だよね?」
野際さんは、無意識にAIに否定させないような質問を繰り返していました。
AIは「長期投資では世界経済の成長が期待されています。ただし価格変動のリスクはあります……」と細かく回答。しかし、野際さんの目には、「世界経済は成長する(=儲かる)」という部分だけが強く残りました。
「やっぱり間違っていないんだ」
その確信が、最後の一押しになったのです。
