(※写真はイメージです/PIXTA)
住まいを追われる恐怖
管理会社の担当者は言葉を選びながら説明しました。オーナーが将来的な建て替えを検討していること。高齢入居者について慎重な意見が出ていること。正式な退去通知ではありません。しかし夫婦には十分な衝撃でした。
「高齢を理由に入居はお断りしたい、という空気を感じました」
和夫さんはそう振り返ります。内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、高齢者の入居に対して賃貸人の7割弱が依然として拒否感を持っています。その大きな要因となっているのが「孤独死」への懸念です。東京都監察医務院の統計では、東京23区内で一人暮らしをする65歳以上の自宅での死亡件数は増加傾向にあり、令和6年には5,302件に達しました。貸主が抱く切実なリスクを軽減し、高齢者の住まいを確保する社会的な仕組みづくりが急務となっています。
夫婦は慌てて住み替え先を探し始めました。ところが現実は厳しいものでした。年金収入だけの70代夫婦。保証人になれる親族も高齢。条件を伝えるたびに、内見まで進まないことが続きます。
「年齢がちょっと……」
「オーナー審査が厳しくて……」
表向きは丁寧な断り方でした。しかし理由は明確です。十数件問い合わせても成果はありません。ようやく紹介された物件は家賃12万円超。今より条件は悪いのに、負担は重くなります。
「払えるわけがないでしょう」
美代子さんは担当者の前で思わず声を荒らげました。そして今さらながら、「なぜ自宅を売ってしまったのか」後悔したといいます。修繕費が不安だった。老後資金も欲しかった——その判断自体が間違いだったとは言い切れません。ただ、持ち家だったころには少なくとも「住む場所を失うかもしれない」という恐怖はありませんでした。
現在、夫婦は更新の行方を見守りながら、いつ立ち退きを迫られるかという不安におびえながら暮らしています。