(※写真はイメージです/PIXTA)
待機中にかかったコスト
入居手続きをしながら、モモさんは3年間の収支を改めて計算しました。在宅介護のために時短勤務に切り替えたのは2年前。それ以前の月収と比べると、毎月約7万円の減収が続いていました。2年間(24ヵ月)の累計では約168万円の減収です。加えて、3年間のデイサービスと訪問介護の介護保険自己負担(月約1万5,000円)が36ヵ月分で約54万円。合計すると、3年間の実質的な経済的負担は約220万円を超えていました。
一方、もし2年前に民間施設への入居を決めていた場合はどうか。今回入居を決めた住宅型有料老人ホームは月額14万円ですが、住宅型の場合、介護サービスは介護保険を使って別途利用する仕組みのため、実際にはその自己負担分(月約2万円)が上乗せされ、実質的な月の負担は16万円になります。
年金11万円との差額5万円をモモさんが補填するとして、24ヵ月で120万円の出費。ただし、収入はフルタイムのまま維持できていた可能性が高いです。この2つを比べると、差額は100万円近くになります。
「早く決断したほうがトータルでは楽だったのかもしれない。お母さんも自宅じゃなければ骨折することもなかったかもしれない」
モモさんはぽつりとそう言いました。母・ミチさんはいま、月14万円の住宅型有料老人ホームで生活しています。スタッフの対応は丁寧で、ミチさん自身は落ち着いた様子です。ただ、モモさんが毎月補填する5万円は、時短勤務のいまの収入では決して軽くない負担です。そしてあの特養からは、いまもまだ連絡が来ていません。
全国で20.6万人が空きを待っている
厚生労働省の「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(2025年)」によれば、特養に申し込んでいるにもかかわらず入所できていない待機者は全国で約20.6万人。前回調査(2022年度)から約4.7万人減少してはいるものの、依然として20万人以上が待ち続けている現実があります。
地域差も大きく、東京や大阪などの都市部では2〜3年待つことも珍しくありません。在宅で順番を待っている人は全体の4割強にあたる8.6万人で、モモさんのようにデイサービスや訪問介護を使いながら自宅で待ち続ける家族は少なくありません。
費用の差も深刻です。特養の月額費用は収入に応じた負担となり、一般的な目安は月8〜15万円程度。これに対し、LIFULL介護の「老人ホームの費用相場」によると民間の有料老人ホームは月額平均16.7万円です。この差が数年単位で積み重なると、家族の資金計画に大きな影響を与えます。「特養に入れれば大丈夫」という前提で老後資金を考えていたミチさんのような世帯にとって、民間施設の費用を長期的に負担し続ける現実は、想定外のものになりがちです。
介護する側の負担も見逃せません。総務省「令和4年就業構造基本調査」によれば、介護を理由に離職した人は年間約10.6万人で、40〜50代が約7割を占めます。モモさんのように、時短勤務や収入減少を抱えながら在宅介護を続ける子世代は、自分自身の老後資金の準備まで滞るリスクを抱えています。
「待ち続ける」にも、コストがある
特養は、費用面での安心感から多くの家族が介護の前提としている傾向にあります。しかし、「待ち続けること」自体にもコストがかかることを忘れないようにしましょう。在宅介護の費用・介護する側の健康・収入の減少、そして万が一のときの資金準備——これらは待機期間が長くなるほど積み重なっていきます。
特養の申し込みは複数施設に同時にできます。申込時に「特記事項」欄へ状況の切迫度を具体的に記載することで、優先度が上がるケースも。また、特養の空きを待ちながら、並行して民間施設やショートステイの活用を検討することで、介護する側の限界を先送りにできる場合があります。
「特養を諦めたわけではない」とモモさんは言います。「いまでも順番待ちのリストには残しています。でもいまは、お母さんが安心して過ごせる場所に入れたことを、まずよかったと思うことにしています」。
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