「あと数年働けば、老後の不安はなくなるはずだった」――十分な収入を得ていた共働き夫婦のそんな確信が、ある日突然崩れ去りました。倒れたのは、再雇用先まで決まっていた59歳の夫。命は取りとめたものの、残ったのは思いがけない後遺症と、計算外の家計の現実でした。「万が一」は、死亡だけではない。FPの三原由紀氏の解説とともに、その意味を今一度確かめてみてください。
「あなた、元に戻って」夫の異変、妻の悲痛な叫び…郊外から駅近6,400万円のマンションに住み替えた50代“勝ち組”夫婦。完璧な返済プランを崩壊させた「共働き計画の死角」 【FPが解説】
共働き時代こそ考えたい「死亡保障以外」の備え
田中さん夫婦のケースが教えてくれるのは、「万が一」とは死亡だけではないということです。多くの家庭では生命保険などで死亡保障を準備しています。
一方で、病気や障害によって働けなくなるリスクへの備えは十分でないケースも少なくありません。住宅ローンに付帯する団信(団体信用生命保険)も、高度障害の認定基準は身体機能の重度な喪失が中心であることが多く、高次脳機能障害は対象外となるケースがあります。武さんの場合も該当しませんでした。
会社員であれば、まず確認したいのが傷病手当金です。健康保険の被保険者が病気やケガで働けなくなった場合、一定条件を満たせば給与のおおむね3分の2相当額が支給されます。 また、勤務先によっては私傷病休職制度やGLTD(団体長期障害所得補償保険)など、長期の所得減少を補う制度が用意されている場合もあります。
こうした福利厚生だけではカバーしきれない場合、就業不能保険や所得補償保険といった民間保険も選択肢です。これらは病気やケガで一定期間働けなくなった際に、月々の収入相当額の一部を補う保険です。共働き世帯では、夫婦それぞれが加入することで、どちらが倒れても家計へのダメージを最小限に抑えられます。
さらに、脳梗塞後の高次脳機能障害などによって日常生活や就労に大きな制限が生じた場合には、障害年金の対象となる可能性もあります(※2)。ただし、制度の適用には個別の要件があります。いざという時に慌てないためにも、自身の勤務先の福利厚生制度や公的保障を一度確認しておきたいところです。
老後資金の準備というと、資産運用や年金額に目が向きがちです。しかし共働き世帯が増えた今、本当に考えるべきなのは、「どちらかが働けなくなった場合」かもしれません。
