「一人で大丈夫、迷惑はかけない」。そう言い切った母を、息子は少し誇らしく思っていました。実際、暮らしぶりに困った様子は見えなかったからです。ところがある日、郵便物を整理していて目にした紙の束。そこに並んだ数字を見て、息子は言葉を失います。そこには、よくある「親のお金の話」に見えて、実は多くの家庭に潜む“落とし穴”がありました。FPの三原由紀氏が詳しく解説します。
「仕送りは必要ないわ」…父の死後、年金月16万円でも“大丈夫”と言っていた母。3年後、実家で見つけた〈見慣れない封筒〉に息子が“思わず叫んだ”ワケ【FPが解説】
「仕送りしなくていい、子どもにだけは迷惑かけない」と言った71歳母
「ちゃんと返しているつもりだったのよ……」
――そうつぶやき、肩を落とした母・淑子さん(仮名・71歳)を見て、息子の淳一さん(仮名・48歳)も「気づいてあげられなくてごめん」と返すことしかできませんでした。
3年前の冬、68歳だった淑子さんは、夫の正一さん(仮名)を心筋梗塞で亡くしました。長男の淳一さんは都内在住の会社員で、妻と高校生の子どもが2人。世帯年収は妻のパート含めておよそ800万円、住宅ローンと2人分の学費を抱え、家計にゆとりがあるわけではありませんでした。
結婚以来、家計は正一さん任せ。堅実で几帳面、「お金のことは俺がやる」が口癖で、住宅ローンも保険もカードもすべて夫が管理し、淑子さんは家のお金の流れを詳しく知らないまま暮らしてきました。退職金1,800万円の多くは住宅ローン返済に充てられ、正一さん死亡時の残債約100万円は、団体信用生命保険で完済。マンションは淑子さんのものになりました。
「夫のおかげで住むところが残って、本当によかった。残った150万円は『もしものときの備え』として、手をつけないつもりよ」
そう話していたという淑子さん。しかし、生前は夫婦で月27万円ほどあった年金収入は、死後、遺族厚生年金と老齢基礎年金を合わせ月16万2,000円ほどに減少していました。
食費や日用品などのほかに、マンションの管理費や修繕積立金の引き落としもあります。年を重ね、医療費も増していました。なにより、家計管理をしたことがない母が、月16万円のお金でやっていけるのか――。
暮らしにゆとりのない淳一さんも母を放っておけず、「無理のない範囲だけど、少し仕送りしようか」と申し出ましたが、淑子さんは決まってこう答えました。
「仕送りなんていらないわ。心配しなくていいよ、ちゃんとやりくりできるから」
実際、会いに行くたびに身なりはきちんとしていて、「お友達と温泉に行ってきたのよ」と楽しそうに話す淑子さん。淳一さんはむしろ安心していたといいます。