AIを「最高の道具」にするためには

投資の相談をできる相手を探すのは、意外と難しいもの。人間相手では、自分の資産状況や考えを率直に打ち明けにくくても、AIならば気兼ねなく相談できます。

また、AIの進化は著しく、野際さんのときに比べて慎重な回答をする傾向も見られます。ただし、いずれにせよAIの回答をそのまま鵜呑みにするのは危険です。AIを使ううえでは、その分野の基礎知識と、AIの得意・不得意を理解したうえで活用する姿勢が不可欠です。

  •  AIの答えは「問い方」で変わる。背中を押して欲しそうな聞き方をすれば押してくる。
  •  AIは古い情報を今のことのように、ありもしない材料を事実のように語ることがある(ハルシネーション)。
  •  AIの助言に法的責任はない。最後に損をするのは自分自身。
  •  上がり続ける相場を見て「今買わなければ損だ」と感じたら、FOMO(取り残される恐怖)の危険信号。
  •  NISAの非課税枠は一度売ると空き枠は翌年まで使えない。しかも、年360万円の上限を超えることはできないので、結果的に売って空いた枠の分を埋められるのは何年か先になることもある。
  •  AIは「壁打ち相手」。資産状況やライフプランを踏まえた助言を求めるなら、FPやIFAなどの専門家に相談する選択肢も。

退職金は、現役生活の最後に受け取るかけがえのない資金です。本当に頼れる相手とは、ときに「それは待て」と、あなたの願いに逆らってでも言ってくれる存在なのです。

ただし、誤解しないでください。AIそのものが悪いわけではありません。AIに「どうすればいい?」と判断を丸投げするから危ないのです。また、AIが正しい情報やバランスの取れた説明をしていたとしても、人はその中から自分に都合のよい部分だけを受け取りがちです。野際さんもそうでしたが、人間側の思い込みや感情が判断を歪めることも少なくありません。

「自分では気づかなかった視点を見せてくれ」「この制度の仕組みを教えてくれ」といった使い方なら、AIは最高の道具になります。答えを決めてもらう相手ではなく、自分の頭で決めるための材料を引き出す相手。その一線を引けるかどうかが、AIに振り回される人と、AIを使いこなす人の分かれ目です。

※1 FOMO(Fear of Missing Out)は「取り残される恐怖」と訳されます。Kaddouhah(2024)の研究("An economic definition of 'Fear of Missing Out'", Finance Research Letters, Vol.63)は、FOMOを「周囲の仲間が自分より良い投資成果を上げているのを見て生じる不安」と定義しています。同論文によれば、人は自分自身の合理的な判断よりも、「あのとき乗っていれば」という後悔の予感と周囲の行動に引きずられて意思決定をしてしまう。FOMOは単なる気の持ちようではなく、投資行動を左右する構造的な心理バイアスなのです。(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S154461232400374X)

※2 国民生活センター「高齢者の消費者トラブル」より。同センターは、高齢者が「お金・健康・孤独」の3つの不安を抱えやすく、そこにつけ込む悪質商法があとを絶たないと指摘しています。(https://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/koureisha.html)

※3 総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、日本人の生成AI利用経験率は2023年度の9.1%から2024年度に26.7%へと、わずか1年で約3倍に拡大しました。60代でも15.5%が利用しています。(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112210.html)

ファイナンシャルプランナー 
青山創星

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