定年後、我が家が一番の不穏な場所に――。現役時代は仕事一筋、家庭を妻に丸投げしてきた65歳男性。しかし、退職と同時に待っていたのは、完全な孤立でした。データが裏付ける高齢男性のシビアな現実を見ていきます。
「俺の飯は?」パートに出る62歳妻に65歳夫がポツリ…定年後に家庭内孤立へ突き進む「完全迷子」な男性の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者の社会的孤立を裏付けるデータ

佐藤さんのように「男は仕事、妻は家庭」という意識を引きずる男性は少なくありません。しかし国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、「結婚後は、夫は外で働き、妻は主婦業に専念すべきだ」に賛成する有配偶女性はわずか24.1%にとどまります。

 

さらに妻の年齢層が高い世帯ほど、夫婦間で「休日の過ごし方について話し合う」や「心配事や悩み事を相談する」といったコミュニケーションの頻度が低くなる傾向が指摘されています。現役時代から対話や価値観の更新を怠ることは、退職後の家庭内での孤立へ直結するリスクがあることがデータからも窺えます。

 

また佐藤さんのように、退職を機に家庭内で居場所を失う高齢男性は少なくありません。夫婦関係が冷え込み、万が一「熟年離婚」などに至った場合、深刻な社会的孤立に直面するリスクがあります。

 

同研究所『第9回世帯動態調査』によると、過去5年間に離別を経験した男性は、離別によって「夫婦と子から成る世帯」から「単独世帯(一人暮らし)」へと移行するケースが31.3%と最も高くなっています。また、65歳以上の男性全体で見ても、子どもと同居している割合は37.5%にとどまっています。

 

仕事一筋で地域との繋がりが希薄だった男性にとって、妻との関係悪化は、そのまま「おひとりさま」での孤立した老後に直結しやすい現状がデータからも窺えます。

コミュニティの喪失と「配偶者依存」の危険性

佐藤さんの日常は、現役時代とは対極にあります。朝起きて新聞を読み、テレビを眺めているうちに1日が終わる――。決まって顔を合わせるのは妻だけであり、その妻からも拒絶されつつある、それが現状です。

 

「会社にいた頃は、同僚もいれば取引先もあって、自分が求められている実感がありました。ただ仕事でつながっていた仲なので、今は頻繁に連絡を取り合う人はいません。社会から切り離された……そんな感覚があります」

 

佐藤さんのように、完全に仕事を辞めたあと、深い孤独感を抱く人は珍しくありません。そこに共通するのは「現役時代の人間関係の清算」と「家庭への過度な依存」です。

 

会社という組織のなかでしか人間関係を築いてこなかった人は、退職と同時にすべてのつながりを失います。その結果、唯一の接点である家族に過度な執着や依存をしてしまうのです。

 

しかし家では「仕事をしてお金を稼いでくる人」という役割しか負っていなかったため、仕事を辞めた後の立ち位置が確立されておらず、結果として行き場を失ってしまいます。このように、定年を迎えた途端に社会的な拠り所をなくし、家庭内でも孤立してしまう高齢男性のケースは社会問題ともなっています。

 

佐藤さんは今後、この重苦しい家庭環境を打開するため、行動を変えるつもりだといいます。まずは自分の食事を自分で用意することから始めるつもりだとか。

 

「正直、電子レンジの使い方もよくわからないのですが、自分で簡単な惣菜を買ってきたり、トーストを焼いたりすることから始めようかと。妻の手を煩わせないことが、今の自分にできる最低限のルールだと考えています」

 

定年後の長い人生を健やかに生きるためには、配偶者に依存しきった関係を改め、夫婦がそれぞれ独立した個人として尊重し合う関係の再構築が欠かせません。「家庭内の迷子」から脱却できるかどうかは、自立に向けた小さな一歩を自ら踏み出せるかどうかにかかっています。