老後を見据え、郊外の一戸建てから利便性の高い駅前に移り住むシニアは珍しくありません。一見すると管理の手間が省ける理想の選択に見えますが、住まいの環境を大きく変える決断には思わぬ落とし穴が潜むものです。一念発起して駅前へ引っ越した夫婦の事例から、わずか1ヵ月で生じた誤算の真相を見ていきます。
「もう広い家も庭も、必要ないよな」〈年金月30万円〉60代夫婦が「庭付き一戸建て」を捨て「駅前2LDK」に住み替え…1ヵ月後には後悔を口にした理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

統計が示す「高齢者の住み替え」と「広さ」の満足度

国土交通省『令和5年住生活総合調査』によると、65歳以上の夫婦世帯が持ち家へ住み替える最大の理由は「高齢期の住みやすさ」(33.9%)であり、事例のようなダウンサイジングは自然な選択です。

 

しかし、高齢者が持ち家から住み替える際、「家財が多く処理に困っている」ことが特有の課題として挙げられています。 さらに、住まいの個別要素に対する不満率を見ると、「収納の多さ・使い勝手」が33.1%、「広さや間取り」が25.6%に上ります。 また、戸建てから共同住宅へ移った場合に直面しやすい「上下階や隣戸からの騒音などに対する遮音性」への不満も28.2%存在します。

 

老後の利便性のみを重視した極端な縮小は、収納不足や音の問題など新たなストレスを生むことがデータからもわかります。

年金月30万円、目減りした老後資金と「維持費」の誤算

さらに夫婦の想定外だったのが、毎月の維持費でした。

 

一戸建てを約2,400万円で売却したものの、駅前の新築マンションの購入価格は諸経費込みで約4,000万円。 現役時代の貯蓄から約1,600万円を取り崩して一括購入したため、手元の老後資金は大幅に減少しました。 そのうえ、分譲マンションであるため、購入後も毎月の「管理費」と「修繕積立金」が合わせて約4万円かかります。

 

総務省『家計調査 家計収支編 2025年平均』によると、高齢夫婦無職世帯の1ヵ月あたりの消費支出は、26万3,979円。 高橋さん夫婦、年金月30万円(額面)ということは、手取りは25万〜26万円程度。 平均的な暮らしぶりであれば、引っ越し前は年金と生活費でトントンといったところ。 そこに月4万円の固定費がプラスされると、当然、取り崩しのスピードが速くなります。

 

「以前の一戸建てなら庭があったのでお金をかけずに園芸を楽しめました。 今は外に出るとすぐに駅前の繁華街でどこへ行くにもお金がかかるので、必要以上に外に出なくなり、インドアになりました」

利便性を求めて駅前に来たはずが、老後資金の減少スピードがアップしたうえ家は狭く、外出すれば出費がかさむため、出不精に。 かえって行動範囲が狭まってしまう状況に陥っているのです。

「老後は利便性が高いエリアへ」が正解とは限らない

新居での片付けに追われ、息苦しさを感じる日々の中で、恵子さんは現在の本音を漏らします。

 

「当時は庭の手入れや坂道が本当に嫌で、駅前に引っ越せばすべての悩みが解決すると思い込んでいました。でも、ないものねだりなんだなと気づきました」

 

何かと行動が制限されるようになる高齢者にとって、老後は買い物や交通の利便性の高いエリアへの住み替えが正解と考えられています。 しかし、その選択が正解かは人それぞれ。 ひと口に高齢者といっても、60代、70代、80代――と年齢によっても正解は変わるでしょう。 自身にとって住まいに求める価値とは何なのか、将来を見据えてしっかりと考え抜くことが大切です。