早期退職、その後の悠々自適な生活――。社会の荒波にもまれるサラリーマンの夢かもしれません。しかし、十分な資産を築いて会社を辞めても、思い描いた通りの日々が叶うとは限らないようです。ある男性の事例から、幸せな老後に必要なものを考えます。
足元はボロボロのフェラガモ…〈貯金8,000万円〉早期退職から10年、68歳になった男性が平日の公園で「ストロング缶」を煽る理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

自分への関心を失い、ボロボロになった高級ブランドの靴

かつては身だしなみに投資し、百貨店で靴を買っていたという木村さんですが、現在の足元にはその頃の面影はありません。足元は常に、履き古されて型崩れし、手入れの行き届いていない高級ブランド「サルヴァトーレ・フェラガモ」のローファー。

 

「もう誰に見られるわけでもないですから、身なりを整えようという気が起きないんです」

 

仕事用のスーツを着なくなってから、何を履けばいいのか分からず、当時の靴をそのまま履き潰しているといいます。内閣府『高齢社会白書』では、たびたびつながりや居場所の喪失が心身の健康に悪影響を及ぼす「社会的孤立」が、高齢期の大きな課題として挙げられ、地域社会における居場所づくりや社会参加の重要性が指摘されています。現役時代にキャリアを築いてきた男性ほど、地域のコミュニティに馴染めない傾向があるのです。

 

「地域のシニア向けの集まりに一度顔を出しましたが、どうにも馴染めませんでした」

 

木村さんは、どうしても相手の昔の役職が気になったり、自分の過去の肩書を意識してしまったりして、素原に話せなかったといいます。今さら新しい人間関係を一から築く気力も湧かず、結果として、誰も自分のことを知らない公園のベンチが、一番落ち着く場所になりました。

 

木村さんのように、十分な資産があることと、豊かな老後を送れることは必ずしもイコールではありません。リタイア生活を成功させるためには、経済的な備えだけでなく、退職後に社会や他者とどのように関わりを持ち続けるかという「社会資本」の設計が不可欠といえるでしょう。