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「貯金8,000万円」で早期退職した元エリート部長の誤算
木村高志さん(68歳・仮名)。平日の日中、駅近くの公園のベンチでアルコール度数の高い「ストロング缶」のチューハイを飲むのが定番だといいます。
「平日の昼間からこんなところで酒を飲んでいるなんて、現役時代の部下が見たら驚くでしょうね」
木村さんは10年前の58歳のとき、大手メーカーの部長職を最後に、選択定年制度を利用して早期退職しました。当時の貯蓄額は、退職金を含めて約8,000万円だったといいます。経済的な不安は一切なく、誰もが羨むリタイア生活が始まるはずでした。しかし、早期退職から10年が経過した現在、木村さんの生活は想定とは異なるものになっています。
「退職した直後は、ゴルフや旅行に行って楽しめました。でも、そんな生活も半年と持ちませんでしたね」
現役時代の友人はまだ働いていて予定が合わず、ゴルフ仲間とも徐々に疎遠になっていったといいます。内閣府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』によると、昔の職場の同僚も含めて、職場の同僚と「付き合っている人はいない」と答えた高齢者は33.5%に上ります。現役時代には強固に見えたネットワークも、会社を離れれば3割以上の人が完全に途絶えてしまうのが現実です。
では、新たな居場所となるはずの地域社会はどうでしょうか。普段の近所付き合いの実態を見ると、「会えば挨拶をする(83.5%)」「外でちょっと立ち話をする(55.4%)」といった表面的な交流が主流を占めています。一方で、「お茶や食事を一緒にする」ような深い関係を築けている人はわずか15.7%にとどまっています。
こうした関係性の希薄化は、シニア層の「友人の不在」に直結しています。同調査では、親しくしている友人・仲間を「ほとんど持っていないと感じる(14.6%)」、「持っていないと感じる(6.4%)」と回答した人が合わせて2割(21.0%)に上ります。
さらに、日常生活のなかで「自分には人との付き合いがないと感じる」ことが「常にある(9.3%)」「時々ある(30.7%)」と答えた人は合計4割(40.0%)に達しており、多くの高齢者が目に見えない孤独感に苛まれている実態が浮き彫りになっています。
木村さんは50代前半のときに妻を病気で亡くしており、子どもは独立して地方で暮らしています。早期退職によって会社という組織とのつながりを失ったことで、社会的な関係性が断絶してしまったのです。
「1週間の中で会話を交わす相手が、コンビニやスーパーの店員だけという時期もありました」
家の中に一人でいると時間の進みが遅く感じられるため、外の空気を吸おうと公園に来るようになったといいます。
「家で飲むよりは、外の景色を見ながら飲むほうが、退屈を紛らわせられる気がして……」
木村さんが平日の公園でストロング缶を煽る理由は、日々の所在なさや手持ち無沙汰な時間を埋めるためでした。現役時代、多くの部下を抱え、多忙なスケジュールで動いていた木村さんにとって、長すぎる自由な時間は、次第に使い道のわからないものへと変わっていってしまったのです。