介護破綻を防ぐセーフティネットである「特別養護老人ホーム」。過酷な在宅介護から解放され、ようやく平穏な日常を取り戻した家族を待ち受けていたのは、あまりにも非情な通告でした。ある親子の事例から、誰もが直面し得る介護の厳しい現実と防衛策をみていきます。
騙された!? 〈年金月12万円〉75歳父、半年待ちで「特養入居」。50歳長女、ホッとひと息もつかの間、8ヵ月後の退去勧告に絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

特養の仕組みと「要介護度」の壁

なぜ、状態が改善すると退去を求められるのでしょうか。その背景には、特養という施設の本来の設置目的に関わるルールが存在します。

 

厚生労働省『令和6年度 介護給付費等実態統計』によると、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の在所者のうち、要介護3から要介護5の認定を受けている人が全体の9割以上を占めます。平成27年(2015年)の制度改正以降、特養への新規入居は原則として「65歳以上で要介護3以上」の重度要介護者に限定されました。

 

ただし、年齢要件には例外もあります。40歳以上64歳以下の人であっても、脳血管疾患など国が指定する16種類の特定疾病が原因で要介護3以上の認定を受けた場合は、特養への入居が認められています。

 

なお、特養の実際の待機期間や入りやすさは、地域ごとの施設数や高齢化率、自治体が定める独自の点数基準によって大きく左右されるのが実態です。

 

また、要介護1や2の軽度者であっても、例外的に入居が認められる「特例入所」という制度が存在します。厚生労働省の指針では、家族等による深刻な虐待が疑われる場合、あるいは単身世帯や同居家族の病弱により地域での生活維持が極めて困難な場合などが対象とされています。

 

しかし、75歳の清治さんの場合は、リハビリによって身体機能が安定し、自立して行える動作が増えていました。そのため、要介護2への変更に伴い、これらの特例要件にも該当しないと判断され、施設側から退去を促されることになったのです。

 

多くの特養では、入居契約書の中に「要介護度が要件を満たさなくなった場合は退去を求めることができる」といった旨の規定が盛り込まれています。

 

さらに、施設側が退去を促す背景には、経営上の加算制度も影響しています。厚生労働省の「介護報酬改定」の議論の中では、特養における「在宅復帰・在宅支援機能」が評価される仕組みが組み込まれています。また、特養では入所待機者に重度要介護者が多い実情もあり、状態が安定した入居者に対して、施設側から住み替えや次の生活の場について相談が行われるケースもあります。

 

「要介護2になったからといって、完全に一人で暮らせるわけではありません。私が仕事をしながら面倒を見るのは以前と変わらず難しい……」

 

施設側からの通告を受け、美奈子さんは激しい不安に襲われましたが、現実的な解決策を模索せざるを得ませんでした。施設側のケアマネジャーと何度も話し合いを重ねた結果、すぐに自宅へ戻るのではなく、まずは「老人保健施設(老健)」へ一時的に移り、さらにリハビリを続けながら次の預け先を探すという案が提示されました。

 

また、月額12万円の年金内で収まる他の選択肢として、低価格なサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や、小規模多機能型居宅介護を組み合わせた生活なども視野に入れて検討を始めています。