(※写真はイメージです/PIXTA)
待ち望んだ「特養」への入居だったが…
「あのときは本当に救われたと思いました。これでようやく、仕事や睡眠を確保できる生活に戻れるんだって」
会社員の山崎美奈子さん(50歳・仮名)。美奈子さんは1年前まで、同居する実父の山崎清治さん(75歳・仮名)の在宅介護に追われていました。
清治さんは3年前に脳梗塞を患い、右半身に重い麻痺が残り、要介護3の認定を受けました。要介護3は、自力での立ち上がりや歩行が難しく、排泄や入浴、着替えなど日常生活において広範な介助を要する状態です。
妻に先立たれた清治さんを一人にするわけにはいかず、長女である美奈子さんが同居して介護を担うことになりました。しかし、日中の仕事に加え、夜間もベッドから車椅子への移乗や排泄の介助が必要となり、美奈子さんの睡眠時間は連日細切れで、負担は限界に達していました。
清治さんの公的年金は月額約12万円。民間の有料老人ホームへの入居は財政的に厳しく、美奈子さんが頼ったのが、費用を抑えられる公的な特別養護老人ホーム(特養)でした。特養は待機者が多いことで知られますが、清治さんの場合は介護者の状況が考慮され、申し込みから約半年で入居の案内が届きました。
「毎月の費用は父の年金内に収まりました。私の持ち出しはほとんどなく、自分の生活リズムを取り戻すことができ、本当にホッとしました」
施設の手厚い介護と専門的なリハビリのおかげで、清治さんの身体機能は大きく向上していきました。麻痺の残る足を上手に使えるようになり、手すりを使って自力で立ち上がり、伝い歩きでトイレへ行けるまでに回復したのです。入居から8ヵ月が経ったころ、要介護認定の更新時期を迎え、美奈子さんの元に届いた新しい通知書には「要介護2」と記載されていました。
要介護2は、食事や衣服の着脱など一部の日常動作を自力で行える場合もある一方、歩行や排泄などでは介助が必要とされる状態です。日常生活の全面的な介助から脱したため、美奈子さんは「父の体が動くようになってよかった」と、このときは素真に喜んでいたといいます。
しかし、その直後に施設側から「今後の生活についてご相談があります」と、面談の呼び出しを受けました。施設長と生活相談員が待つ部屋に入った美奈子さんは、そこで思いもよらない言葉を耳にすることになります。
「清治さんの新しい認定が要介護2になりました。今後の住み替えも含めて、ご家族と相談していければと思っています」
娘として父の回復は喜ばしいはずでした。しかし、それは同時に「特養に居続ける権利」を失うことを意味していたのです。特養は介護度が下がると、継続入所が難しくなったり、退去を求められたりする場合があるということを、美奈子さんは知りませんでした。
「良くなったら追い出されるなんて、思いもしませんでした。またあの在宅介護に戻るのかと思うと、目の前が真っ真っ暗になりました」