近年、定年退職後の生活資金を補うため、現役時代に培った資産の運用を検討する高齢者が増えています。しかし、十分な知識がないまま焦って投資を始めた結果、老後資金を大きく減らしてしまうケースは後を絶ちません。周囲の言葉に背中を押されて投資に参入し、思わぬ窮地に立たされたある元教師の事例を通して、シニア層における資産運用のリスクと現実をみていきます。
妻「だから、やめたらと言ったのに…」〈退職金2,200万円〉62歳元教師、友人「資産運用してないの?」に焦って投資に手を出した末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

穏やかな老後を揺るがした、友人たちとの「格差」

「あのとき、妻の忠告を素直に聞いておけばよかったです。すべては私の見栄と焦りが原因でした」

 

地元の公立中学校で長年理科の教師を務めていた坂本達也さん(62歳・仮名)。坂本さんは公立学校の定年引き上げに伴い、62歳で定年退職を迎えました。真面目な勤務態度が評価され、退職時には2,200万円の退職金が支給されました。長年連れ添った妻の恵子さん(60歳・仮名)とともに、慎ましくも穏やかな老後を送る予定でした。

 

変化が起きたのは、定年退職から数カ月が経ったころ、大学時代の友人たちと数年ぶりに集まった飲み会でのことでした。席上、友人たちの大半が新NISAや株式投資, 不動産投資など何らかの資産運用を行っていることが話題にのぼりました。

 

「達也は退職金、どうしてるんだ? まさか普通預金に入れたままにしてないだろうな」

 

友人の一人からそう尋ねられた坂本さんは、正直に「特に何もしていない」と答えました。すると周囲から「これからの時代、何もしないのが一番のリスクだ」「インフレで現金の価値は下がる一方だぞ」と指摘されました。

 

坂本さんは「教師という狭い世界にいた自分は、世間の常識から取り残されているのではないか」という強い焦燥感を抱きました。

 

内閣府『高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査(2021年度)』によると、高齢者が日頃から不安に感じていることとして「生活費や財産などの経済的なこと」を挙げた割合は31.9%にものぼります。現役時代に一定の収入があった層であっても、退職後に「資産を減らしたくない」「周囲に後れを取りたくない」という心理的プレッシャーを感じるケースは少なくないのです。

妻の制止を振り切り、1,000万円を一括投資した代償

焦った坂本さんは、YouTubeやSNSで「新NISAで老後資金を増やす方法」「米国株は長期で成長し続ける」といった情報を毎日のようにチェックするようになっていきました。

 

やがて坂本さんは、退職金のうち1,000万円を、値動きの大きい海外ハイテク株やNASDAQ連動型のレバレッジ投資信託へ、一括で投資してしまったのです。

 

自宅のパソコンで投資口座を開設しようとする坂本さんを見て、妻の恵子さんは猛反対しました。

 

「あなた、投資なんてこれまで一度もやったことがないじゃない。退職金で投資を始めるなんて、危険すぎる」

 

しかし、坂本さんは「これからはお金にも働いてもらう時代んだ。預金だけでは増えない」と言い放ち、恵子さんの制止を振り切って投資を強行しました。

 

ところが、その直後から世界的な株安が進行。坂本さんが購入した銘柄は数カ月後に急落することとなります。

 

毎日のように資産残高を確認しては、一喜一憂する日々が続きました。夜中に何度も株価を確認するようになり、眠れない日も増えていきます。