長引く物価高騰は、現役世代だけでなくリタイア層の暮らしにも大きな影響を与えています。十分な資金を持って都心のタワーマンションへ住み替えた高齢夫婦であっても、数年後に予期せぬ家計の危機に直面するケースは少なくありません。ゆとりある老後から一転して苦悩することになったある夫婦の事例を通して、老後の住まい選びに潜む落とし穴について見ていきます。
「この眺望、必要なかったな…」〈年金月32万円・資産1億円〉65歳定年夫婦。老後の贅沢で買った都心タワマン、5年後、“想定外の維持費”に絶望の日々 (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者世帯が直面する「住居費」の現実

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)の受給者の平均年金月額は基礎年金を含めて15万1142円。また65歳以上・男性の厚生年金受給権者の平均受給額は月17万3033円、女性は月11万4797円。夫婦2人がともに厚生年金を受給している木村さん世帯の32万円という金額は、平均を大きく上回る水準です。

 

しかし、どれだけ現役時代に備えをしていても、都市部のマンション維持費の上昇スピードがそれを上回れば、家計は圧迫されます。

 

国土交通省『令和5年度 マンション総合調査』によると、全国のマンションにおける1戸あたりの修繕積立金の平均額は月1万3054円で、駐車場使用料などからの充当額を含めると1万3378円となっています。

 

一方、総戸数が多く共用設備が複雑なタワーマンションや、築年数が経過した物件では、この水準を大きく上回るケースも少なくありません。

 

また同調査では、修繕積立金について「計画に対して不足している」と回答した管理組合が36.6%にのぼっており、今後も全国的に値上げ圧力が続く可能性が示唆されています。

 

木村さんは、今後の生活を見据えて、早くも売却を視野に入れ始めているといいます。

 

「仲介業者に査定してもらったところ、購入時を大きく上回る金額で売れそうなことがわかりました。憧れは叶えることができた。もう一度、のんびりとした郊外の生活に戻るのも悪くないねと、今は夫婦で前向きに話し合っています」

 

セカンドライフの住まいとして選んだはずの高層タワーマンション。想定外の維持費に一度は頭を悩ませた夫婦でしたが、資産価値の高騰という追い風を受け、自分たちの身の丈に合った安心を求めて、新たな一歩を踏み出そうとしています。