(※写真はイメージです/PIXTA)
「親を頼る子」と「負担を抱える親」の構造
佐藤さん夫婦のような「近居」による子育て支援は、現代の親子関係の形の一つです。
国立社会保障・人口問題研究所『第9回世帯動態調査』でも、家庭機能の低下が指摘される今日において、出産や子育ての支援といった家族の機能は、同居や近接性(近居)を前提に行われることが多いと指摘されています。
実際に高齢期のデータ(要介護高齢者における最近居子の居住地)を見ると、親世帯と子世帯が独立しつつも、「同じ敷地内」や「となり近所」という近距離に居住するケースが、単独世帯・夫婦のみ世帯のいずれでも15%以上確認されています。
「同じ市区町村」まで含めると、その割合は約4割(単独世帯で43.3%、夫婦のみ世帯で38.0%)に達します。
しかし、適度な距離を保てるはずの近居でも、親側、子側、それぞれが単独の世帯であるという意識が薄くなると、片方に必要以上の負荷がかかることもあります。
健太さんは「いつも孫の面倒を見てもらっているから」と、正雄さん夫婦を外食に連れ出してくれますが、「息子夫婦にお金を出させるわけにはいかない」と、結局は正雄さんが払っていたといいます。孫の手前、格好いいところを見せたい、という思いもあったのでしょう。
さらに近居から2年が経過した頃、大きな出費が発生しました。
「孫が幼稚園から小学校に上がるタイミングで、長男が『手狭だからもう少し広いマンションに引っ越したいが、初期費用が足りない』とボヤいていたんです。結局、引越し費用や礼金などで約150万円を私が出しました」
そして移住から3年目を迎えたころ、正雄さんが自宅の階段で足を踏み外し、大腿骨を骨折しました。長期の入院と退院後のリハビリ、さらには自宅の手すり設置などの介護改修が必要となったのです。
正雄さんの医療費や介護費の自己負担が発生したことで、佐藤家の家計は限界を迎えました。貯蓄残高は500万円を切り、このままのペースで長男家族への援助や自身の生活費の補填を続ければ破綻は確実でした。
「主人の入院を機に、初めて息子夫婦に『これまでのような援助は難しい』と頭を下げました」
さらに逆にお金の援助を求めることがあるかもしれないと、赤裸々に話したそうです。しかし、長男夫婦の反応は冷たいものでした。
「そんな余裕がないなら、なんで僕たちを地元に呼び寄せたのか」
健太さん夫婦に悪気はなかったのかもしれませんが、「親には十分な年金と蓄えがあり、近居を歓迎してくれている」と思い込んでいた子世代にとって、突然の援助打ち切りと資金要請は、不満と不信感を植え付ける結果となってしまいました。
総務省統計局『家計調査(家計収支編)』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における1カ月の消費支出は平均26万3,255円。年金だけで生活を維持することは本来、容易ではありません。
ここに別世帯である子世代の生活補助や孫の費用が上乗せされれば、現役時代の蓄えは急速に減少してしまうでしょう。
「息子夫婦には私たちへの過剰な甘えがあったでしょうし、私たちには過度な見栄があった。お互い、適切な距離感を考えていたなら、老後の生活がこんなにもボロボロにならなかったのに」