近年、地方自治体の手厚い子育て支援などを背景に、現役世代の「Uターン移住」が注目を集めています。一見すると親世代・子世代の双方にメリットが大きい選択に思えますが、すべてが成功例とはいえません。孫との平穏な日々を夢見て長男家族を受け入れたものの、わずか3年で老後が崩壊したという夫婦の事例を通して、親子の適切な距離感を考えます。
「これから毎日会えるね」〈年金月24万円〉65歳夫婦、38歳息子家族のUターン移住に小躍りも、3年後、まさかの老後崩壊のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

待望の「孫との近居生活」がもたらした誤算「地方で伸び伸びと子どもを育てたい」

そんな理由から、3年前に東京からUターン移住をしてきた長男家族を、佐藤正雄さん(65歳・仮名)と妻の美智子さん(63歳・仮名)は歓迎して迎え入れました。

 

当時、長男の佐藤健太さん(現在は38歳・仮名)は都内のIT企業に勤務していましたが、妻の菜々子さん(36歳・仮名)が第二子を出産したのを機に、正雄さん夫婦が暮らす地方都市の実家から車で15分ほどの賃貸マンションへ引っ越すことを決めました。

 

「健太から『地元に戻りたい』という話を聞いて、『ぜひぜひ』と後押ししました。当時は本当に嬉しかったです。スープの冷めない距離での生活なら、お互いのプライベートも守られて上手くいくと思っていましたし」

 

美智子さんは当時の心境をそう語ります。

 

65歳となり、夫婦2人で受け取る年金は月約24万円。地方都市の一軒家で、ローンも完結している2人だけの生活であれば、十分に暮らせるはずの金額です。

 

しかし、健太さん夫婦と、現在は5歳と2歳になる孫との近居生活が始まった瞬間から、佐藤家の家計は厳しくなっていきました。

「援助は惜しまない」という親の判断

移住にあたり、健太さんは地元の中堅商社に転職。しかし東京で働いていたころと比べて、給与は3割減。手取りで30万円ほどになりました。

 

幼児2人を抱える4人家族の生活費や家賃を支払うと、毎月の収支は決して余裕があるわけではありません。

 

それを見かねた正雄さんは、近居を始める際に「こっちでの生活が軌道に乗るまでは、必要な費用は私たちが援助するから心配しなくていい」と言ったそうです。

 

「息子も転職直後で大変だろうという親心でした。孫の教育費やちょっとした生活補助くらい、私たちの年金とこれまでの貯蓄から少し持ち出せば十分に賄えると考えていたのです」

 

正雄さんは当時をそう振り返ります。

 

しかし、至近距離に暮らす長男家族への援助は、正雄さんの想像を超えていきました。特に増えたのが、日常的な食費の肩代わりと孫の世話にかかる諸経費です。

 

美智子さんは平日の仕事帰りの菜々子さんを助けるため、毎日のように夕食をおかず付きで多めに作り、長男宅へ届けました。週末になれば、一家を実家に招いて夕食を振る舞うことが習慣化しました。

 

さらに、保育園の送り迎えや急な発熱時の対応、習い事の月謝の補填なども、正雄さん夫婦の財布から支払われました。

 

毎月の援助額を加えると、生活費は年金支給額の24万円を上回り、毎月5万円程度を貯蓄から補填する状態が続いていきました。