公的年金の「繰下げ受給」は老後資金を増やす有効な手段として知られています。しかし、この制度には残された家族が直面する大きな落とし穴も。人生の伴侶を突然失ったシニア女性の事例を通して、知っておくべき遺族年金の仕組みについて見ていきます。
「地獄でしかない…」70歳夫が急死。繰下げ受給で〈年金月25万円〉のはずが、72歳妻に告げられた「驚愕の遺族年金額」と自宅売却の現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

繰下げ受給を選択するシニア層の現状

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、老齢厚生年金の受給権者のうち、繰下げ受給を選択した人の割合は1.9%。この5年で倍増しています。人生100年時代を見据え、就労を長く続けたシニア層ほど、受給開始を遅らせる選択をしやすくなっています。

 

しかし、この「遺族年金には繰下げ増額が反映されない」というルールを正確に把握している受給者は決して多くありません。長生きリスクへの対策ばかりが強調され、夫に先立たれた場合の「残された妻のリスク」に対する認識が不足しているのが現状です。

 

美智子さんの暮らす自宅は築40年ほど。外壁の補修や水回りのリフォームなど、まとまった維持費が必要になる時期を迎えています。

 

「毎月15万円の収入では、固定資産税や家の維持費をまかなうのは難しい。貯蓄を取り崩してまでこの家に住み続けることは、あまり現実的ではないのかもしれません」

 

貯蓄も葬儀費用などで一部を取り崩しており、今後の医療費や介護費への不安も募ります。美智子さんは今後の生活を見据えて、自宅の売却を検討し始めているといいます。

 

「夫との思い出が詰まった家ですが、今後のことを考えて、決断は早いほうがいい。家賃の安い賃貸マンションか、介護施設か――どちらにせよ、家は売ることに決めました」

 

公的年金の繰下げ受給は、夫婦ともに長生きする場合には有利な制度です。しかし、人間の寿命をコントロールすることは不可能。高齢期の資産形成においては、単にもらえる額を増やす視点だけでなく、万が一の際にいくら残るかという視点で生活設計することが重要です。