文部科学省の「令和5年度子供の学習費調査」によると、私立学校に通う子どもの学習費総額は年間で小学校が約174万円、中学校は約156万円と、保護者にとって極めて重い負担となっています。「子どもへの教育こそ最大の投資」と信じ、私立中高一貫校から一流私立大学まで総額3,100万円の教育費を注ぎ込んだエイジさんも、そんな教育費の重圧を耐え抜いた一人でした。しかし定年を迎えたいま、手元に残ったのは「老後資金ゼロ」という過酷な現実。教育投資によって生じたシニア困窮のリスクに迫ります。※人物名はすべて仮名です。
「一流大学に入れたけれど…」息子に〈教育費3,100万円〉を費やした65歳父、バイト中に“ぼやき”。老後資金ゼロの家で思い知った「我が子の教育」の残酷なリターン (※写真はイメージです/PIXTA)

65歳、アルバイト生活で思い知る「教育」の残酷さ

現在、エイジさんは平日の早朝から、近所の物流倉庫で軽作業のアルバイトをしています。マコさんもスーパーのパートに週4日出ていますが、夫婦合わせた収入は月約16万円。これに年金を合わせ、日々の食費と光熱費を賄っている状態です。少しでも余剰分が出た月はいまからでもと、今後のために貯蓄へ回しています。

 

子どもに最高の教育を与えれば、自分たちの老後も間接的に豊かになる、あるいは最悪のときには手を差し伸べてもらえる――そんな昭和の時代に作られた「家族の双方向リターン」の幻想は、現代社会では完全に崩壊しています。

「子どもへの教育投資」がはらむシニア困窮のリスク

エイジさんは「これだけ尽くしたのだから」という見返りを無意識に求めていましたが、ユウサクさんは「自分の実力で成功した」と考えています。

 

・資産寿命の極端な短縮:定年前に数千万円単位の現金を一気に放出するため、シニア世代にとって最も重要な「複利での資産運用」や「貯蓄のストック」の機会を根本から喪失します。

 

・「高学歴な子」ほど遠くへ行きがち:一流大学を出て大企業に就職した子どもほど、都心部や海外に拠点を置き、地方の実家へ戻る可能性は極めて低くなります。結果として物理的・精神的な距離が生まれ、親の「老老介護」への関与も薄れがちになります。

 

親の「期待」と子の「自立」のミスマッチ

アルバイト中、同じようにシニアになっても働き続ける同世代をみつめながら、ぽつりとぼやきました。

 

「あのとき、私立ではなく公立に行かせていれば。浪人を許さず現役合格を言い聞かせていれば。自宅から通える大学に絞っていれば。いまごろマコを連れて旅行くらい行けたのに……」

 

教育費の恐ろしいところは、それが「子どものため」という大義名分を持っているため、支払っている最中は予算を減らそうと思いづらい点にあります。しかし、3,100万円の対価として得た「一流企業に勤める息子」というプライドは、エイジさんのいまの暮らしを1円たりとも潤してはくれません。

 

「我が子の教育」という投資がもたらした、子の成功と、親の老後破産。エイジさんは明日もまた、妻が握ってくれるおにぎりを持って、倉庫のアルバイトへと向かいます。

 

「子どもの教育費」と「親の老後資金」は、人生における二大巨額支出ですが、決定的な違いがあります。子どもは奨学金や教育ローンを組むことができますが、「親の老後破産を救うローン」は存在しないという点です。子どもへの投資によって自分たちの未来を削り取ることは、美徳のようにみえて、リスクが高い側面も。見返りを求めない愛情だけであれば、気持ちの整理はつくかもしれませんが、その場合にも、現実的な経済状況とのすり合わせも重要です。

 

大前提として親が「最後まで自立して生きてくれること」が、実は子どもにとってもギフトであることも忘れてはなりません。

 

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