高齢層が保有する金融資産の割合は高まる一方で、十分な資産を持ちながらも将来への不安から過度な倹約を続ける高齢者も珍しくありません。客観的には裕福とされる層が、なぜ貯蓄が減ることに過敏となり、生活の質を極端に落とすほどの節約に走るのか――。2億円超の総資産を持ちながら、日常生活を厳しく制限する男性の事例を通し、「貯める力」と「使う力」の乖離についてみていきます。
総資産2億円超え、ガレージには高級車。それでも、1円単位まで割り勘…妻も愛想を尽かした〈年金月19万円〉70歳男性が抱える「お金への執着」の正体 (※写真はイメージです/PIXTA)

孤立を深める「1円単位」のこだわり

高橋さんの過度な節約意識は、かつてあった人間関係を断絶させました。

 

「妻は付き合いきれないと出ていきました。私も無理に彼女の感覚に合わせてお金を減らすくらいなら、別れたほうがいい。友人との付き合い!? 以前は食事に行くこともありましたが、割り勘の数円単位で揉めるのが嫌で、誘いもすべて断るようになりました」

 

外出時の飲料購入も、高橋さんにとっては「資産を削る行為」に感じられるといいます。

 

「自動販売機で水を買うなんてもったいない。家から水筒を持っていけばいいでしょう。とにかく、無駄なことにお金を使ってしまったときの後悔が大きい。だから節約を徹底することが、心の安定につながるんです」

 

現在、高橋さんが手にする年金は月19万円ほど。手取りだと月16.5万円ほどだといいます。生活費はどんなことがあってもこのなかに収め、自身の貯蓄には絶対に手を付けないと心に決めています。

 

「一度減ってしまうと、使うことに慣れてしまうでしょう。だから、生活費が年金以上になってしまってはダメなんです」

 

金融経済教育推進機構の前出の調査によると、金融資産保有世帯における金融資産額の平均と中央値は以下の通り。70代でも平均値で2,700万円、中央値で1,500万円もの資産を保有しています。生活防衛の目的に貯蓄を減らさないように、と心がけている人は多いでしょう。しかし気を付けるあまり、使う機会を失う人も多いと考えられます。

 

【金融資産保有世帯における金融資産額】

20代:683万円(260万円)

30代:1,337万円(500万円)

40代:1,840万円(828万円)

50代:2,344万円(1,050万円)

60代:3,087万円(1,775万円)

70代:2,714万円(1,495万円)

※数値左より、平均値(中央値)

 

現役時代に培った「貯める力」を、退職後に「人生を豊かにするために使う力」へとシフトできなかった高橋さん。2億円超の資産を持ちながら、数字の維持だけに縛られるその暮らしは、老後の本当の豊かさとは何かを問いかけています。