(※写真はイメージです/PIXTA)
床下のタンス預金の成れの果て
「まさか、自分たちの手でお金を捨てるような事態になるとは思いませんでした」
都内在住の主婦、加藤美代子さん(56歳・仮名)は、父・博さん(84歳・仮名)が入院した後の出来事を淡々と語り始めました。
博さんは長年、都内で小さな鉄工所を経営していました。現役時代から「銀行に預けても、いざという時に下ろせなくなったら終わりだ」と言い張り、まとまった現金を手元に置くことに固執していたといいます。
現在は月10万円の年金で慎ましく暮らしていましたが、体調を崩して急遽入院。今後の生活費を整理するため、加藤さんが実家の片付けを行っていた際、博さんは病室でこう告げました。
「和室の床板の下に、店を畳んだ時の金がある。それで用立ててくれ」
驚いて確認に行くと、確かに畳の下に古い金属製の金庫が埋め込まれていました。加藤さんが業者を呼んで金庫を開けると、そこには新聞紙に包まれた100万円の束が10個入っていました。しかし、その光景は加藤さんが想像していた「大金」とはかけ離れたものでした。
「全体が黒ずんでいて、お札がコンクリートの塊のようにカチカチに固まっていました。指で触れると表面がポロポロと剥がれ落ちるんです」
金庫の密閉性が高すぎたのか、床下の湿気が入り込んだまま逃げ場を失い、長年かけて紙を劣化させたようでした。加藤さんは、この塊を引き換えるため日本銀行本店に持ち込みました。窓口の職員は、状態を見てこう言いました。
「無理に剥がそうとせず、そのまま持ってきて正解でした。慎重に鑑定します」
しかし、数週間にわたる鑑定の結果、告げられたのは非情な数字でした。日銀の規定では、お札の3分の2以上が残っていれば全額ですが、5分の2以上3分の2未満なら半額、それ以下は失効扱いになります。
「父の預金は中心部まで傷みが進んでおり、結局、1,000万円あったはずの現金は、550万円にまで減ってしまったんです」
博さんの「銀行不信」という信念が生んだ結末は、残された家族にとって重い教訓となりました。