昨今の老人ホームは、ホテルのような豪華な設備や手厚いコンシェルジュサービスを売りにする、ラグジュアリーな施設も存在します。豊かな老後を夢見て、多額の資産を投じるケースが増える一方で、契約の複雑さが招く予期せぬトラブルも後を絶ちません。理想の終の棲家を選んだはずの夫婦が直面した、厳しい現実を見ていきます。
「ふざけるな!」〈年金月28万円〉〈貯金7,000万円〉70代夫婦、30年の社宅生活を経て「高級老人ホーム」に入居…5年後に知った〈契約書の落とし穴〉に絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

「介護付」施設の契約リスク

斉藤さんが直面している問題は、多くの入居検討者が陥りやすい「契約の解釈違い」に起因します。

 

厚生労働省『令和6年 社会福祉施設等調査』によると、有料老人ホームの施設数は増加傾向にありますが、その契約形態は多岐にわたります。特に「介護付」を謳う施設であっても、人員配置基準(3:1)を超える手厚い体制を維持するための費用は、利用者の自己負担となるケースが一般的です。

 

また、国民生活センターの集計では、有料老人ホームに関する相談のうち「解約に伴う返還金」や「月額利用料の増額」に関するトラブルが上位を占めています。斉藤さんの場合、入居時に受けた「一生面倒を見る」という言葉を、追加費用なしで受けられるサービスだと誤解していました。

 

「契約書を読み返すと、確かに『心身の状態の変化により、住み替えや追加費用の発生がある』と小さな文字で記載されていました。しかし、営業担当者からは『斉藤様のような資産状況なら、最後まで何の問題もありません』と断言されていたのです」

 

施設側は「契約書に基づいた適正な運用である」との一点張りで、話し合いは平行線をたどりました。斉藤さんは現在、妻を連れて別の安価な施設へ転居するか、このまま資金が底をつくまで留まるかの選択を迫られています。しかし、転居しようにも戻ってくる返還金はほとんどなく、新たな施設の入居費用を捻出するのは容易ではありません。

 

「社宅時代に贅沢をせず貯めた金が、ここまで減るとは思いませんでした。高級な外観や食事に目を奪われ、契約書を軽視した代償はあまりに大きいです」

 

斉藤さんのように「貯金があるから大丈夫」と考える層こそ、長期的なキャッシュフロー・シミュレーションを、最悪の介護シナリオに基づいて作成する必要があります。