(※写真はイメージです/PIXTA)
「あんたのお母さんをやるのは疲れた」息子を突き放した〈母の決断〉
自分を育て、何不自由なく世話をしてくれた母親が限界を訴えているのに、自分の生活のことしか頭にない。怒ったような態度で反論するマコトさんの顔を見て、ヨウコさんのなかで長年張り詰めていた糸が切れてしまいました。
「もう、あんたのお母さんをやるのは疲れたわ。あとは一人で生きていきなさい。ちゃんと稼いでいるんでしょ」
ヨウコさんはマコトさんを冷たく突き放し、自室へ引き上げました。現在、不動産会社に連絡を取り、自宅の査定と売却に向けた準備を着々と進めているヨウコさん。
一方のマコトさんはいまだに文句を垂れながらも、一人暮らしをするための物件を探しています。実家というぬるま湯に浸かり続けた中年の息子に、厳しい現実が突きつけられようとしています。
約半数が子の生活費を負担…データが示す「中高年パラサイト」の実態
ヨウコさんのように、高齢になっても未婚の子と同居し、身の回りの世話や経済的な負担を強いられているケースは、現代日本において珍しいことではありません。生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(令和6年)」によると、世帯主から見た同居家族のうち「子供(未婚で就学終了)」がいる割合は全体の25.4%に上ります。
また、内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」によれば、高齢者の30.8%が「子(子の配偶者あるいはパートナーを含む)」と同居していることがわかります。マコトさんのような「実家暮らしの中年未婚子」と「高齢の親」という組み合わせは、一般的な世帯の形になりつつあることが推測されます。
しかし、深刻なのはその内情です。内閣府の同調査において、子と同居している高齢者に「子や孫の生活費負担」について尋ねたところ、生活費を「負担している(ほとんど負担している・一部を負担しているの合計)」と答えた割合は49.8%に達しています。マコトさんのように手取り48万円という十分な収入がありながら、実家に月5万円しか入れず、年金暮らしの親に生活費や水道光熱費の大半を負担させる「パラサイト(寄生)」状態が、データ上でも浮き彫りになっています。
子が自立しないまま親が高齢化すると、やがて親の年金と体力は底をつき、ヨウコさんのような共倒れの危機に直面します。「私が甘やかした」と自責の念に駆られていたヨウコさんですが、「家を売却して物理的に環境をリセットし、子を強制的に自立させる」という決断は、自らの健康と残りの人生を守るための妥当かつ合理的な防衛策でしょう。
手遅れになる前に「親からの強制的な離別」に踏み切ることが、長寿化社会の隠れたリスクである「子への過剰な支援・依存」を断ち切る有効な手段であることを、この事例とデータは示唆しているといえそうです。
[参考資料]
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(令和6年)」
内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」