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親のプライドが招いた「家計破綻」の全貌
都内のIT企業に勤務する高橋達也さん(52歳・仮名)のもとに、埼玉県で一人暮らしをする母・ハナ子さん(82歳・仮名)から電話があったのは、ある深夜2時のことでした。電話越しのハナ子さんは、消え入るような声で「お腹が痛くて動けない、助けて」と訴えました。
達也さんが車を飛ばして実家に駆けつけると、ハナ子さんは布団の上に倒れ、自力で立ち上がれない状態でした。すぐに救急搬送された病院での診断は、重度の低栄養状態と脱水症状。医師からは「長期間、まともな食事を摂っていない可能性がある」と告げられました。
「母はもともと几帳面な人でしたから。父が亡くなった後も、自分の年金でちゃんとやっていけているんだな、とばかり思っていました。たまに実家へ顔を出しても、いつも通り煮物などを作って出してくれましたし、お金に困っている様子なんて少しも見せなかったんです」
達也さんは、これまで何度も「生活費は足りているか」と尋ねてきましたが、ハナ子さんの答えは常に「十分足りているから、自分の子どもたちの教育費に使いなさい」という同じ言葉。そのため、実家を訪ねるたびに仏壇に供える数千円程度の菓子折りを持っていく程度にとどめていたといいます。
退院後の生活を整えるため、達也さんはハナ子さんの同意を得て、実家の家計状況を精査することに。そこで目にしたのは、現実とは思えない光景でした。冷蔵庫の中には、水と少量の梅干し。あとは基本的な調味料が入っているだけでした。
「仏壇の引き出しの奥に、通帳が何冊かまとめて置いてあったんです。嫌な予感がして最新のページを開いてみたら、メイン口座の残高はたったの315円でした。他の通帳もすべて確認しましたが、どれも数十円とか数百円しか入っていなくて……。本当に一銭も残っておらず、言葉を失ってしまいました」
ハナ子さんの収入は、老齢基礎年金と亡くなった父の遺族厚生年金、合わせて月11万円ほど。家賃のかからない持ち家ですが、数年前に行った屋根の修繕工事で約200万円の貯蓄を使い果たしていました。
それ以降、固定資産税の支払いや持病の通院費が家計を圧迫し、毎月2万円から3万円の赤字が続いていたことが判明。ハナ子さんは、息子に心配をかけたくない一心で、公共料金の支払いを優先し、自らの食費を極限まで削って帳尻を合わせていたようです。
「母にしてみれば、息子に金銭的な泣き言をいうなんて、親としてのプライドが許さなかったのかもしれません。毎年、母の日には1万円くらいのプレゼントを贈っていたんですけど、母が本当に欲しかったのは花じゃなくて、その日の生活費だったんですよね。そう思うと、何も気づけなかった自分が情けなくて……」
達也さんは現在、ハナ子さんを自宅近くの介護施設へ入所させる手続きを進めています。施設費用と年金の差額、月約7万円は達也さんが負担することになりました。自身の子どもの大学進学を控えた達也さんにとっても、この固定費の発生は、家計に重い影を落としています。