近年、SNSを通じた投資詐欺の被害が急増しており、なかには現役時代に相応の役職を務めた人がターゲットになるケースもあります。定年退職後の孤独や社会的なつながりの欠如が、詐欺師につけ入る隙を与えてしまう――。SNSのDMをきっかけに資産を失った男性のケースを通じ、現代社会の歪みをみていきます。
「人生、終わりました…」〈退職金3,000万円〉60歳元部長の告白。SNSの「1通のDM」で〈1,000万円〉をドブに捨てた「元勝ち組の末路」 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年後の孤独を埋めるためにSNSを始めたが…

「まさか自分が、こんな稚拙な手に引っかかるなんて、思ってもみませんでした。今はもう、自嘲する気力もありません」

 

大手メーカーで部長職まで務め上げた田中徹さん(60歳・仮名)。田中さんは60歳を迎えて、長年勤めた会社を定年退職しました。手元に残ったのは、約3,000万円の退職金。堅実に積み立てた貯蓄と合わせれば、老後は安泰のはずでした。

 

しかし、退職後の生活は想像以上に「無」でした。部下との酒席も、多忙な会議もない毎日。妻とは数年前に別れて独り身の田中さんは、話し相手を求めてX(旧Twitter)を始めます。何気ない日常を投稿していると、ある日、1通のダイレクトメッセージ(DM)が届きました。

 

「あなたの投稿には、知性と品格を感じます。もしよろしければ、資産を守るための勉強会に参加しませんか」

 

送り主は、プロフィール画像に品の良いスーツ姿の女性を掲げたアカウントでした。

 

「最初は警戒しました。しかし、やり取りを続けるうちに彼女は投資のプロだと自称し、最新のAIを用いた未公開の金融商品を提案してきたのです。経済ニュースには精通している自負があったのですが、彼女の話す専門用語や『限られたエグゼクティブだけの情報』という言葉に、少々舞い上がってしまった自分がいました」

 

田中さんは、最初は少額の50万円を振り込みました。すると、専用のウェブサイト上の画面では、わずか数日で資産が20%も増加。

 

「利益が出ているのを見て安心しました。その後は、自分から『もっと運用額を増やしたい』と申し出たほどです。彼女も『田中さんなら特別に枠を広げます』と。気がつけば、3ヵ月で1,000万円を送金していました」

 

異変に気づいたのは、娘の結婚祝金として一部を引き出そうとしたときです。サイトにログインできなくなり、DMを送っても返信は途絶え、アカウント自体が消去されていました。警察に駆け込みましたが、振込先は海外の口座を経由しており、回収は絶望的だと言い渡されました。

 

「自分は絶対騙されない、そう思っていましたが、その過信がよくなかった。これが詐欺だと確定したときには『人生終わった』と思いましたね。それだけ精神的ショックは大きなものでした」