(※写真はイメージです/PIXTA)
自分たちの収入だけでは生活が回らない息子夫婦
「母さん、悪いんだけど今月あと5万だけ、なんとかならないかな。息子の夏期講習の振込が重なっちゃってさ」
首都圏の古い戸建てで一人暮らしをするアツ子さん(71歳)のスマホには、週に一度は息子からこうした連絡が入ります。あるときは「車の車検代」、あるときは「急な冠婚葬祭」。中小企業に勤める息子のユウイチさん(仮名/42歳)は、住宅ローンと教育費にいつも追われています。
アツ子さんはその都度、「これが最後よ」といいながら自分の年金や貯蓄から補填してきました。しかし、そんな彼女の生活は、あるとき入院を余儀なくされたことで、大きく変わることになります。
静かな病室でみた、言葉を失う「現実」
骨粗鬆症により、もともと骨が脆かったアツ子さん。買い物中に横切る自転車をよけようとしたときに、尻もちをついて、背骨を骨折してしまいました。不幸中の幸い、骨折は軽度と診断されましたが、高齢であることと、骨折の場所が場所だけに入院することになったのです。
アツ子さんが案内されたのは、4人部屋の一般病室でした。アツ子さんの隣のベッドにいたのは、重い脳卒中を患った同世代の女性。その女性は全身が麻痺しており、意思疎通はまったく図れない様子です。数時間おきにやってくる看護師が、喉に詰まった痰を吸引していました。時折、女性の重いいびきが聞こえてきます。
「……あの方は、どれくらいここにいらっしゃるんですか?」同室の女性に尋ねると、もう数ヵ月になるといいます。やがて半月ほどして、その女性は民間介護施設へと移っていきました。その際、女性を迎えにきたのは息子夫婦らしき男女でしたが、彼らの表情はひどく疲れ切り、事務的に手続きを済ませる姿が印象的でした。
「私がもし、ああなったら。ユウイチたちは私を世話してくれのだろうか」
アツ子さんは、初めて「自分の最後」を具体的なイメージとして捉え、背筋が凍る思いがしました。
震える手で計算した「24ヵ月後」の未来
退院したその夜。アツ子さんは、保管していた自分名義の通帳を広げました。
貯金残高:約600万円
月々の年金額:12万円
1ヵ月の生活費:14万円(持ち家の修繕積立金を含む)
息子夫婦への平均支援額:16万円
月々の不足分は約18万円。もし、息子への支援を続ければ、600万円÷18万円=33.3ヵ月。計算はあまりにも残酷でした。実際にはこれまでのように不定期な出費が重なれば、わずか24ヵ月でアツ子さんの全財産は底を突くことになります。
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(令和7年)」によれば、70代単身世帯の資産中央値は500万円。アツ子さんは決して極貧ではありません。しかし、病室でみた「要介護が必要になりながらも生き続ける日々」を支えるには、600万円はあまりに心もとないことに気づいたのです。