(※写真はイメージです/PIXTA)
「もう出せません」震える手で閉じた通帳
数日後、案の定ユウイチさんから電話がかかってきました。
「母さん、悪いんだけど、来月の学資保険の積立金が……」
(入院していたのに、体調を尋ねることもないのね……)。これまでは、息子の困った声を聞くのが辛くて、反射的に「わかったわ」と答えてきました。しかし、アツ子さんの脳裏に浮かんだのは、あの病室での光景。
「……ごめんなさい。もうあなたたちに渡せるお金はありません」
「急にどうしたんだよ。少しでいいんだ。母さんだって貯金あるだろ?」
「それは、私が『人間として最後を終えるため』のお金なの。このままだと、私が将来誰かの助けを借りなければ生活できなくなったとき、あなたたちに迷惑をかけてしまう」アツ子さんは、泣き出しそうな声を必死に抑えて告げました。
いまの自分の生活を犠牲にすることが親心だと思っていましたが、自分が破綻すれば、結果的に息子たちにさらなる重荷を背負わせることになります。その連鎖を、いまここで断ち切るしかない――。電話を切ったあと、アツ子さんは震える手で通帳を閉じました。
600万円という数字は増えはしませんが、これからは自分の尊厳を守るための目的以外には使わない。そう心に誓ったのです。
高齢者を飲み込む「逆仕送り」のワナ
アツ子さんのようなケースは、現代の日本で「隠れ老後破産」として急増しています。
子どもからの金銭援助のお願いは、多くの場合「孫のため」という大義名分を伴います。これが親のガードを下げさせ、自分の老後資金を削ってでも差し出してしまう要因となりがちです。
生命保険文化センター(2024年度)の調査によれば、介護にかかる一時費用の平均は約74万円、月々の費用は平均8.3万円、介護期間の平均は55月(4年7ヵ月)です。自宅を売却するという手段もありますが、アツ子さんの600万円は、介護が必要になった場合、平均的な生存期間をカバーできるかどうかの瀬戸際のラインといえるでしょう。
親が経済的に自立し続けることは、将来的に子どもが背負う「親の扶養」というリスクを最小限にすることと同義です。アツ子さんの拒絶は、親子共倒れを防ぐための防衛策といえます。
アツ子さんがみた病室の女性は、彼女にとっての「未来の警告」でした。老後資金のゆとりは、「自分の最後をどう扱ってもらうか」という選択肢を増やすことに繋がります。アツ子さんのような年金受給額・資産額の単身高齢者に、息子夫婦の家計まで上乗せをする余裕はないといえるでしょう。
息子夫婦は一時的に困窮するかもしれませんが、これを機に自分の家計の「身の丈」を見直す必要があります。親が財布の紐を締めることは、子どもを本当の意味で「大人」にするための、最後の教育なのかもしれません。
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