少子高齢化が進む現代日本において、顕在化する中高年の引きこもりや「パラサイト・シングル」の問題。親の慈愛が、結果として家族全員を共倒れに追い込むという現実――。今回は、一度は独立した息子を温かく迎え入れた老夫婦のケースから、親子間の経済的分離の重要性を考えます。
「帰ってきてくれて嬉しいわ」〈貯金3,000万円〉〈年金月15万円〉75歳母。都心で挫折した45歳息子のUターン同居も、想定外の5年後 (※写真はイメージです/PIXTA)

息子の帰郷が招いた想定外の家計膨張

「私が倒れれば、この子も死ぬ」――。追い詰められた母を救ったのは、息子の変化でした。

 

神奈川県郊外の住宅街で一人暮らしをしていた佐藤和子さん(75歳・仮名)のもとに、長男の健一さん(45歳・仮名)が戻ってきたのは5年前のことです。都心のIT企業で心身を削り、無職となった息子を、和子さんは「帰ってきてくれて嬉しい」と喜んで迎え入れました。

 

亡夫の遺産と貯蓄を合わせれば3,000万円ほど。自身の年金月15万円と合わせれば、二人で静かに暮らしていくには十分だと考えていたのです。しかし、現実は甘くありませんでした。

 

「最初の1年は、とにかく休ませれば元に戻ると思っていました。でも、一度切れた糸は結び直せなかった。息子は日中もカーテンを閉め切り、食事の時以外は部屋から出てこなくなりました」

 

焦った和子さんが再就職を促すと、健一さんは激しい動悸を訴え、玄関先でうずくまるようになります。その姿を見るたびに和子さんは自分を責め、「私が支えなければ」という使命感から、息子のスマートフォンの通信費や、彼が唯一の慰めとしていたデリバリー費用のすべてを払い続けました。

 

年間で取り崩す貯蓄は200万円を超え、5年が経過したころには、貯蓄の減少スピードは加速度的に増していきました。

 

そんな折、和子さんは持病の腰痛が悪化し、ぎっくり腰を併発して寝たきりの状態になってしまいます。食事の用意はおろか、トイレに立つことさえままならない。文字通り「詰んだ」と絶望した和子さんでしたが、その危機が、一歩も外に出られなかった息子を変えました。

 

「母さん、俺が行くから」

 

健一さんは数年ぶりに自ら玄関を出ました。極度の対人恐怖でスーパーに行くことすらできなかったはずの息子が、和子さんのために湿布や惣菜を買ってきたのです。

 

「レジで手が震えて、お釣りも受け取らずに逃げ帰りそうになった」と語る息子の看病を受けながら、和子さんは涙が止まりませんでした。

 

「私が元気で、何でも買い与えていたうちは、息子は動く必要がなかったのでしょう。私が動けなくなったことで、彼は無理やりにでも外に出ざるを得なかったのだと思います」

 

和子さんの体調は回復しましたが、5年間の「猶予期間」で失った代償は小さくありません。3,000万円あった貯蓄は、現在1,000万円を切っています。健一さんは週に数回の買い出しには行けるようになったものの、いまだ本格的な就労には至っていません。

 

「ただ、少しずつでも前進している。息子はきっと大丈夫です」

 

 

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