(※写真はイメージです/PIXTA)
それは1本の電話から始まった
関東近郊の住宅街に住む佐藤節子さん(78歳・仮名)は、半年前の午後に受けた1本の電話を、今も鮮明に記憶しています。
「午後2時を過ぎたころでした。電話に出ると『警察署の防犯課の者です』と名乗る男性の声がしました」
電話の主は、落ち着いた事務的な口調で告げます。
「佐藤さんの名義のキャッシュカードが、逮捕された詐欺グループの所持品の中から見つかった。犯人がカードを使って銀行から現金を引き出そうとした形跡があるため、現在のカードを至急無効化し、保護の手続きをとる必要がある――」
「私は驚いてしまい、どうすればいいのか尋ねました。すると相手は、『今から捜査官がご自宅へ向かいます。その者が手続きを代行しますので、カードを準備して待っていてください』と」
佐藤さんは、警察官が直接自宅へ来るという言葉に、かえって安心感を抱いたと振り返ります。電話を切ってから約20分後、玄関のチャイムが鳴りました。そこに立っていたのは、紺色のスーツを着用し、首から身分証のようなものを下げた30代前後の男でした。
「男性は玄関先で名刺のようなものを提示し、『お電話した件で参りました』と丁寧にお辞儀をしました。私は疑うこともなく、男性を家の中に招いたんです」
男は鞄から白い封筒を取り出し、佐藤さんにキャッシュカード3枚をその中に入れるよう指示しました。佐藤さんがカードを封筒に入れると、男は「封印をするために印鑑が必要です。奥から持ってきていただけますか」と言いました。佐藤さんが印鑑を取りに別室へ移動し、再び玄関に戻るまでの時間は1分足らず。戻ると、男は封筒の口を閉じ、その上から佐藤さんに割印を求めました。
「『この封筒は証拠品として警察で厳重に保管します。手続きが完了する明日まで、決して開けないでください』と言われ、男はそのまま封筒を私に手渡して帰っていきました」
翌日、不審に思った息子が訪ねてきて封筒を開けると、中にはキャッシュカードではなく、同サイズに切られた厚紙とトランプが入っていました。佐藤さんが印鑑を取りに席を外したわずかな隙に、男はあらかじめ用意していた別の封筒とすり替えていたのです。
佐藤さんの口座からは、合計で約450万円が引き出されていました。それは亡くなった夫の遺族年金と、自身の将来のために蓄えていた貯金のすべてでした。
「警察の方が助けてくれるのだと、最後まで信じていました。自分の不甲斐なさと、人を信じてしまった後悔でいっぱいで……」
