「親の遺産はきょうだいで平等に」――。一見、公平に思える母の提案が、親族間に深い亀裂を生じさせることがあります。ある家族のケースを通して、高齢化社会で多くの人が直面するかもしれない相続問題について考えていきます。
「おねえさん、何もしていませんよね」帰り際に放たれた義妹の激昂…「相続は平等に」が生んだ確執 (※写真はイメージです/PIXTA)

介護の「貢献度」をめぐる感情の対立と、寄与分の壁

美津子さんが直面した相続問題は、高齢化とともに増加する介護負担とも絡み合い、今後、多くの家族が直面するかもしれません。

 

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、同居の主な介護者で最も多いのが配偶者(22.9%)。次いで子(16.2%)、「子の配偶者」(5.4%)と続きます。さらに性別では、同居の場合は男性が31.1%に対し女性は68.9%、別居の場合は男性26.0%に対して女性は71.1%。ここから、長男の嫁である奈緒さんの介護負担が大きかったことがうかがえます。

 

また奈緒さんのように「仕事を休んでまで対応した」という献身は、法的には「特別寄与料」の対象になり得ます。これは、長男の嫁、孫など、相続人ではない親族が、亡くなった人(被相続人)の介護や看病、家業の手伝いなどを無償で献身的に行い、財産維持に貢献した場合に、相続人に対して金銭を請求できる制度です。2019年の民法改正により、6親等内の血族または3親等内の姻族が対象になりました。

 

しかし、実務上の壁は高いのが現実です。裁判所が認める「寄与分」は、単なる通院の付き添い程度では不十分とされ、本来であればプロのヘルパーを雇うべき状況を無償で代替したといった「特別の寄与」が求められます。

 

法的には母の言葉を優先して、何ら問題はないでしょう。しかし、法的な解釈だけを優先し、家族がぎくしゃくしてしまうのも考えもの。具体的な解決策としては、母・和子さんの預貯金から生前の介護実費(交通費やパート休業損害分)を「立替金」として優先的に清算し、残りを折半するなど、柔軟な合意が望まれます。

 

500キロという物理的距離が生んだ負担の格差を数字で可視化し、奈緒さんの「労働の価値」を正当に評価して譲歩の姿勢を示す――。これは泥沼化を防ぐひとつの選択肢と考えられます。