「親の遺産はきょうだいで平等に」――。一見、公平に思える母の提案が、親族間に深い亀裂を生じさせることがあります。ある家族のケースを通して、高齢化社会で多くの人が直面するかもしれない相続問題について考えていきます。
「おねえさん、何もしていませんよね」帰り際に放たれた義妹の激昂…「相続は平等に」が生んだ確執 (※写真はイメージです/PIXTA)

「お姉さんは何もしていない」…義妹の言葉に凍りついた食卓

新幹線を乗り継ぎ、500キロ離れた実家へ向かったのは、父の一周忌を終えて数日が経ったころでした。58歳の田中美津子(仮名)さんは、現在、都内で夫と大学生の子どもの3人暮らし。実家の近くには、弟で長男の健一(54歳・仮名)さん夫婦が住んでおり、昨年施設で亡くなった父の介護や、現在一人暮らしをしている母・和子(82歳・仮名)さんの生活を日常的に支えていました。

 

事の始まりは、母の和子さんが自宅の居間で切り出した相続の話でした。「お父さんの遺産とこの家だけど、健一と美津子の二人で折半にしてほしいの。それがお父さんの遺志でもあるから」という母の言葉に、健一さんは「母さんがそう言うなら異論はないよ。姉さんも遠くから心配してくれていたし」と穏やかに同意しました。美津子さんは、学費などの経済的な事情もあり、母の配慮に安堵していました。

 

しかし、その数日後、美津子さんが帰京する直前の食卓。弟の妻である奈緒(51歳・仮名)さんと二人きりになった際、思いもよらない言葉を投げかけられました。

 

「お姉さん、相続を半分もらうというのは本当ですか。それはあまりにずるいのではないでしょうか」

 

奈緒さんの表情は硬く、視線は鋭いものでした。驚く美津子さんを前に、奈緒さんは淡々とした口調ながら、これまで溜め込んできた不満を吐露するように続けました。

 

「お姉さんは遠方にいて、介護も手続きも何ひとつしていませんよね。お義父さんが施設に入るまでの病院の送迎や、施設に入ってからの度重なる呼び出しも、全部私たち夫婦が対応しました。健一さんが仕事のときは、私がパートを休んで動いたことも何度もあります。それなのに、いざお金の話になったら平等の権利を主張する。弟君ばかりが大変な思いをしているのに、かわいそうだとは思わないのですか」

 

美津子さんは、弟夫婦への感謝は常に言葉にして伝えてきたつもりでした。しかし、奈緒さんにとっては、物理的な負担を担っていない美津子さんが、自分たちと同じ額の相続を受けることが許容できなかったのです。

 

「私にも家庭があり、子どもたちの学費もかかります。それに、相続は母の意思ですし、法律でもきょうだいで分けるものだと思っていました」

 

美津子さんはそう答えましたが、奈緒さんは納得しませんでした。

 

「法律がどうあれ、現場で苦労したのは私たちです。何もしていないおねえさんが半分持っていくのは、感情的に納得できるものではありません」と言い残し、奈緒さんは席を立ちました。

 

500キロの距離を埋められなかった美津子さんと、重い介護負担に耐えた奈緒さん。相続という現実的な問題に対して、まだ結論は出ていないといいます。