(※写真はイメージです/PIXTA)

開業医は、医療機器の導入や施設の建設などによって多額の借金を抱えることが多く、万が一の事態で債務が残された場合、遺族に大きな負担をかけるリスクがあります。事業承継や個人の相続対策も視野に入れ、必要保障額の考え方、保険の種類と選び方、税務上の注意などを説明します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

開業医が直面するリスクと生命保険の必要性

開業医は勤務医時代と異なり、個人としての生活リスクに加え、事業主としての経営リスクも負います。とくに、医院開設にかかる多額の借入金(設備投資や運転資金など)は、万一の際に深刻な問題となります。

 

個人保証のリスク:

金融機関からの借入時には、院長が個人で連帯保証人となるのが一般的です。もし院長に万一のことがあれば、残された家族がこの借金の返済義務を負うことになります。

 

事業の継続リスク:

院長が不在になると、医院の診療が停止して収入が途絶えてしまいますが、その一方で、借金返済は続きます。そうなれば、資産整理のため、閉院・売却に追い込まれる可能性が高くなります。これらのリスクから家族を守り、事業を円滑に承継するには、生命保険による備えが不可欠です。

開業医にとっての生命保険活用術

開業医の場合、必要となる保障額は勤務医とは大きく異なります。

 

事業負債の返済資金:

最も重要な要素です。金融機関からの借入金の残高と数ヵ月分の従業員の給与をカバーできるだけの金額を確保する必要があります。

 

遺族の生活費:

遺された配偶者や子どもの生活費、教育費などを考慮します。

 

納税資金:

死亡保険金にも相続税がかかる場合があります。納税資金を考慮しておくことで、予期せぬ負担を避けることができます。現在保有している資産(預貯金、有価証券、不動産など)と遺族年金などの社会保障給付から、想定される納税額を差し引いた金額が、必要な保障額の目安となります。

賢く選ぶ生命保険の種類

開業医のリスク管理には、主に以下の生命保険が有効です。

 

定期保険:

一定期間の保障を目的とした掛け捨ての保険です。保険料が比較的安く、多額の保障を準備するのに適しています。借金の返済期間に合わせて保険期間を設定することで、効率的にリスクに備えることができます。

 

逓減定期保険:

時間経過とともに保障額が減少していくタイプの定期保険です。借入金の残高は返済とともに減っていくため、これに合わせて保障額も減っていく逓減定期保険は、より効率的な保険料でリスクをカバーできます。

 

収入保障保険:

万一の際、保険金を一時金ではなく、年金形式で毎月受け取れる保険です。遺族の生活費確保に適しており、保険料が安く設定されている傾向があります。日本医師会が実施している収入保障保険は、医師に特化した保障です。入院中だけでなく、自宅療養・一部復職の場合など収入が減少した際に保険金が支払われ、うつ病などの精神疾患も一定期間(最長2年間など)補償となる場合があります。

また、保障期間を最長70歳まで選択できるプランもあり、医師が長く働くことを考慮した設計になっています。保険料も団体割引が適用されるため、個別に加入するよりも保険料が割安になる傾向があり、個人で加入する場合、受け取る保険金は原則として非課税となることも特徴です(ただし、保険料を必要経費に算入していた場合は課税対象となることがあります)。

 

事業の借入金返済を目的とするなら定期保険や逓減定期保険、家族の生活保障を目的とするなら収入保障保険など、目的に合わせて複数の保険を組み合わせることも有効です。

生命保険を活用した具体的な対策…医療法人化している場合

医療法人では、生命保険の保険料を経費として計上できる場合が多いです。定期保険の保険料は、一定の条件を満たせば全額損金算入が可能であり、法人税の負担を軽減できます。

 

事業保障対策として法人が契約者、被保険者を院長、受取人を法人とする生命保険に加入することで、万一の際に支払われる保険金を、法人の借金返済や事業継続のための資金として活用できます。ただし、損金算入できる条件や割合は保険の種類によって異なるため、税理士と相談しながら最適なプランを検討することが重要です。

 

この一方で貯蓄型保険の保険料は、損金として計上される部分と資産として計上される部分に分けられます。将来的に解約返戻金や満期保険金として返ってくる可能性のある部分を「資産」とみなすためであり、2019年の税制改正では法人契約の保険料の損金算入ルールが厳格化され、最高解約返戻率が50%を超える場合には支払保険料の一部を資産として計上する必要があり、損金算入が不可となる部分が生じます。

生命保険を活用した具体的な対策…個人事業主の場合

個人事業主の生命保険は原則として経費にはできませんが、生命保険料控除を利用して所得税や住民税の負担を軽減することができます。また、借入金が個人保証である場合、個人で生命保険に加入し、受取人を家族に指定することで、万一の際に家族を守ることができます。

まとめ

開業医が生命保険を適切に活用するためには、事業と個人のリスクを総合的に判断することが不可欠です。

 

事業保障:

医療機器のリースや銀行からの借入金など、事業上の借金に対する備え

 

個人保障:

自身の生活費や将来の資産形成、そしてご家族の生活を守るための備え

 

これらの両面を考慮し、最適な生命保険を設計することが、多額の借金から身を守り、安心した医療経営を続けるための鍵となります。複雑な制度や税務上の注意点も多いため、開業医の事情に詳しいファイナンシャルプランナーや税理士に相談しながら進めることを推奨します。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師