(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックを開業するとき、スタッフ採用の段階で必ず用意しておくべき書類のひとつが労働条件通知書です。労働条件を明確に書面で伝えることで、トラブルの防止だけでなく、安心して働ける環境を整えることにつながります。本記事では、労働条件通知書の基本と活用のポイントをわかりやすく解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

労働条件通知書は採用時の信頼関係をつくる第一歩

クリニックを開業すると、医療機器や診療体制の準備に意識が向きがちです。しかし、実際に日常の診療を支えるのはスタッフであり、その雇用条件を明確に示すことは採用活動の出発点になります。

 

労働基準法第15条では、雇用契約を結ぶ際に使用者は労働条件を明示する義務があると定められています。

 

この明示を行う代表的な方法が労働条件通知書の交付です。

 

単に法律遵守のための書類という位置づけではなく「スタッフが安心して働けるかどうか」を左右する大切なものといえます。

 

口頭説明だけですませてしまうと、給与や勤務時間に関して「聞いた話と違う」という行き違いが起こり、トラブルにつながる可能性が高まります。

明示すべき内容とクリニックならではの工夫

労働条件通知書には、法律で必ず記載しなければならない事項があります。

 

主な内容は以下の通りです。

 

●雇用契約の期間(有期か無期か、更新の有無)

●就業場所と業務の内容

●始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、時間外労働の有無

●賃金の金額、内訳、締め日と支払日、支払い方法

●退職に関する事項(解雇事由を含む)

 

クリニックの場合、さらに特有の運営に応じた内容を盛り込んでおくと安心です。

 

たとえば、診療時間が押して終了が遅れた場合の残業の取り扱い、患者対応に伴う時間外勤務の考え方、スタッフ研修や勉強会への参加義務の有無などです。また、試用期間中の給与水準や社会保険加入の有無を明確にしておくことで、採用後の誤解を避けることができます。

 

こうした細部まで書面に記しておくことは、雇用する側にとっても「あとで説明が不足していたのではないか」と不安を抱かずにすむ安心材料となります。

トラブル防止だけでなくスタッフ定着にもつながる

労働条件通知書を交付することは、トラブル防止に直結します。しかし、それだけではありません。スタッフにとっては「このクリニックは労務管理をきちんとしている」という安心感につながります。

 

開業間もない時期は診療体制の安定が最も重要ですが、採用したスタッフが短期間で離職してしまうと、新たな採用や教育の負担が重くのしかかります。

 

採用時にしっかりと条件を提示することは、スタッフの定着率を高め、長期的な安定経営を支える基盤になります。

 

だからこそ、最初の段階で安心して働ける環境を整えることが、クリニック経営の成否に直結するといえるでしょう。

就業規則との整合性も意識しておく

スタッフが10人以上になると、就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る義務が発生します。

 

しかし10人未満であっても、就業規則を用意し、労働条件通知書と矛盾のない内容にしておくことは望ましいです。

 

「通知書にこう書いてあるのに、就業規則には違うことが書かれている」といった矛盾があると、逆に混乱を招きます。

 

将来的に人員が増えた場合にも対応できるよう、あらかじめ整合性を意識して整えておくことが、長期的に安心できる体制を築くポイントです。

まとめ

労働条件通知書は、スタッフ採用時に必ず用意しておくべき基本書類です。

 

単に法律遵守のための形式ではなく、信頼関係を築き、安定した診療体制を支えるための基盤となります。

 

開業時は診療準備で忙しく、後回しにしてしまいがちな部分ですが、早い段階で整備しておくことで、院長先生自身が診療に専念できる環境が整います。

 

「最初にしっかり整えておく」ことが、結果としてトラブル防止とスタッフ定着につながるでしょう。

 

 

社会保険労務士法人WILL

代表社労士・特定社会保険労務士 山本 達矢

 

 

山本 達矢

社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士