50代の転退職が老後資金に与える「大きな穴」

田中さんのような状況は、意外と珍しくはありません。会社の環境が変わったり役職から外れたりして、仕事への意欲が下がりつつも、会社は決して辞めない――それは、一つの現実的な選択ともいえます。

というのも、50代後半で転職をしようとした場合、賃金がどう変わるか簡単には予測できないのが実情です。厚生労働省の「雇用動向調査」(令和6年)によると、55~59歳で転職した人のうち、前職より賃金が増えた人は約35%、減少した人も約34%とほぼ同水準でした。一方、60~64歳になると賃金が下がる人は5割を超えています。

さらに見落とされがちなのが、老後の年金への影響です。会社員としての収入があり、その金額や働く期間が長くなるほど、将来受け取れる厚生年金も増える仕組みです。

50代後半で転職して収入が変化すれば、その積み上げにも影響が出ます。ねんきんネット(日本年金機構の公式サービス)を使えば、現時点での年金見込み額と、65歳になるまで働き続けた場合の試算を比較することができます。その差が月数万円になることもあり、30年の老後を考えれば決して小さな金額ではありません。

また、退職金への影響も小さくありません。勤続年数や退職理由によって支給額が変わる会社は多く、「あと数年会社に残っていれば、もっともらえたのに」という場合もあります。そのため、就業規則や人事部への確認は、退職を決断する前に必ずしておくべきことです。

実際、田中さんの知人にも、57歳で会社を離れた人がいます。退職金は減額され、再就職はできたものの年収は以前より大きく下がりました。「我慢して、もう少し残っていればよかった」と話すこともあるそうです。