老後の生活を支える年金。しかし、ある日突然、身に覚えのない減額に驚くケースは少なくありません。そこには、単なる物価の変動や制度改正だけではない、ある「手続き」が深く関わっていました。 千葉県に住む男性のケースを通じ、年金振込額を左右する要因について詳しくみていきます。
「なにかの間違いでは…」年金月20万円・72歳元教員、2月の年金振込額に異変。原因は「出し忘れた1枚の書類」 (※写真はイメージです/PIXTA)

元教員、年金支給日に「何かの間違いでは…」

千葉県内の戸建て住宅に住む田中和男さん(72歳・仮名)。地元の公立中学校で教鞭を執っていた元教員で、現役時代は学年主任や教務主任を歴任しました。現在は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて月額20万円、年間でおよそ240万円の年金を受給しています。

 

2月の年金支給日。田中さんはいつものように銀行で通帳記入を行い、その数字に思わず目を疑いました。前年12月までは約185,000円だった振込額が、178,000円台まで減っていたのです。

 

「最初は計算間違いか、システムエラーだと思いました。月に7,000円近い差ですから」

 

田中さんは慌てて自宅に戻り、1月末に届いていた青色のハガキ(公的年金等の源泉徴収票)と、前年の秋に届いていた書類を引っ張り出しました。原因は、2025年10月頃に届いていた「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」の未提出でした。この書類は、年金から差し引かれる所得税を計算する際、配偶者控除などの各種控除を適用するために原則として毎年提出が求められるものです。

 

田中さんは数年前から妻(68歳)を扶養に入れており、これまでは毎年「変更なし」として提出してきました。しかし昨年の秋は、趣味の旅行や庭の手入れに夢中になるあまり、「どうせ内容は同じなのだから、提出しなくても自動的に継続されるだろう」と思い込んでしまいます。結局、書類を提出しないまま紛失してしまいました。

 

「教員として『期限までにきちんとやりなさい』などと指導してきたのに、いざ自分のこととなると……。年金暮らしが長くなり、どこか気が緩んでいたのかもしれません」

 

扶養親族等申告書が提出されていない場合、日本年金機構は配偶者控除などの人的控除を適用せずに所得税の源泉徴収額を計算します。その結果、通常よりも多めの税額が年金から天引きされることになります。田中さんの場合も、配偶者控除が考慮されない計算となったことで源泉徴収される所得税が増え、2月の支給分から手取り額が減っていたのです。なお、所得税には復興特別所得税があらかじめ上乗せされているため、結果として天引きされる税額はさらに大きくなります。

 

2月に届いた源泉徴収票には、前年1年間の金額が並んでいました。しかし田中さんにとって衝撃だったのは、それ以上に「これからの振込額が減る」という現実でした。


「月に7,000円近い差は、私たち夫婦にとって決して小さくありません。1カ月分の食費の足しや、孫への小遣いに充てられる金額ですから」

 

もっとも、払い過ぎた税金は確定申告を行うことで還付を受けられる可能性があります。ただし、そのためには自ら申告手続きを行わなければなりません。

 

「自分の過信が招いた結果とはいえ、青いハガキ1枚でここまで生活に影響が出るとは思いませんでした。ポストの中身をきちんと確認していれば……。そう思うと、今でも後悔が残ります」