老後の安心を求めて選択する高級老人ホーム。多額の入居金と潤沢な資金があれば「終の棲家」は約束されると考えがちですが、現実はそれほど甘くありません。入居者の心身の状態変化に対し、施設側が運営上の限界を突きつけるケースは珍しくありません。契約の裏側に潜む落とし穴と、家族が備えておくべきリスクの正体に迫ります。
老人ホーム施設長「誠に遺憾ですが、退去願います」年金月22万円・82歳父が、入居金2,000万円・高級老人ホームで最期を迎えられず…55歳娘が直面した「想定外の追加徴収」と「強制退去」の全貌 (※写真はイメージです/PIXTA)

「終の棲家」の契約解除を巡るリスク

多くの入居者やその家族は「老人ホーム=終の棲家」であり、最期まで居住する権利が保障されていると考えがちです。

 

厚生労働省の「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」では、入居契約の解除について厳格な手続きを求めています。しかし同時に「他の入居者等に対して、その生命、身体、財産等に危害を及ぼし、又はそのおそれがある場合」などは、施設側からの契約解除が認められる旨も明記されています。

 

国民生活センターの「有料老人ホームをめぐるトラブル」に関する調査報告(2023年公表分)によると、退去・解約に関する相談件数は年間1,000件を超えて推移しています。高額な費用を払えば安心という期待が裏切られる背景には、現在の介護現場が抱える「3つの限界」が存在します。

 

1.現場の「対応能力」の限界

介護労働安定センターの「令和5年度 介護労働実態調査」によれば、事業所の6割が人手不足を訴えています。人手不足の現場では、特定の入居者に付きっきりになることは物理的に不可能です。現場が「これ以上は他の方の命を守れない」と判断したとき、施設は運営維持のために退去を宣告します。

 

2.施設の「役割」の限界

有料老人ホームは、あくまで「生活の場」であり医療機関ではありません。厚生労働省の指針でも、施設側からの契約解除が認められる条件に「自傷他害の恐れ」が挙げられています。認知症に伴う幻覚や攻撃性が強まり、医学的なアプローチや閉鎖環境での管理が必要になった瞬間、施設は「責任を負える範囲」を超えたと判断します。

 

3.立ちはだかる資金的な限界

多くの施設が採用する「入居一時金の償却制度」により、数年が経過した時点での退去では、手元に戻る返還金はごく僅かになります。退去を命じられた際、次の施設に入るための「まとまった資金」がすでに消えているため、行き場を失う状況を招くことがあります。

 

これらの事態は、入居金がいかに高額であっても、現在の介護現場の労働環境や契約ルールの中では避けられないリスクです。2,000万円という大金を支払っても、施設の運営上の都合や制度の限界によって、退去を迫られるケースは珍しくありません。

 

家族に求められるのは「高いお金を払ったから大丈夫」と過信せず、契約書にある「退去に関する条項」を事前によく確認することです。また、一箇所の施設にすべての資産を使い切らず、万が一、別の施設や病院へ移ることになった際の予備資金を確保しておくことが重要です。