会社員人生の先に受け取ることのできる「退職金」と、自ら備えてきた「iDeCo」。老後資金の柱となるこの2つですが、受け取り方を一歩間違えると、想定外の税負担に襲われるリスクが潜んでいます。 ある男性のケースから、退職金とiDeCoを併用する現役世代が知っておくべき受取時期の鉄則と、賢い出口設計のポイントについて解説します。
「税金で半分近く持っていかれるなんて聞いてない!」定年退職金2,000万円を受け取った60歳男性が、iDeCoとの”同時受給”で重税を課された末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

「10年」あけないと損をする? iDeCo受取りの常識

山下さんのケースにおける問題の核心は、国税庁が定める「退職所得の合算」ルールにあります。国税庁の解説によれば、同一年に複数の退職手当等を受け取る場合、それらを合算した金額から一度だけ退職所得控除を差し引く仕組みになっています。山下さんのように勤続38年の場合、退職所得控除は「800万円+70万円×(38年-20年)=2,060万円」と計算されます。

 

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、大学卒(管理・事務・技術職)の定年退職者の平均退職金額は1,896万円です。さらに、日本経済団体連合会の「2021年9月度退職金・年金実態調査結果」でも、勤続35年以上の場合の退職金は2,000万円を超える水準となっています。

 

こうした水準を踏まえると、多くの会社員が山下さんと同様、退職金だけで退職所得控除の大部分を使い切る状況にあるといえます。その結果、iDeCoの一時金を同じ年に受け取ると、控除枠を超えた部分が課税計算に含まれるケースが生じるのです。

 

さらに近年、出口戦略を難しくしているのが税制改正です。かつてはiDeCoを先に受け取る場合、5年程度の間隔を空ければ会社の退職金受取時に控除計算への影響が小さくなるケースがありました。しかし2022年4月の税制改正以降、この期間は実質的に「10年以上」が目安とされるようになりました。いわゆる「10年ルール」と呼ばれるものです。

 

一方、厚生労働省の資料によると、確定拠出年金加入者の約7割が「一時金」での受取を希望しています。しかし、この「10年ルール」を前提に受取時期を設計している人は必ずしも多くありません。そのため、積立時には所得控除による節税メリットを享受していても、出口で想定外の税負担が生じるリスクがあります。

 

こうした事態を避けるためには、iDeCoを年金形式で受け取り、公的年金等控除を活用する方法もあります。あるいは、会社の退職金受取から10年以上の間隔を空けてiDeCoを一時金で受け取るといった方法も検討に値します。

 

iDeCoは老後資金形成に有効な制度ですが、積立時の税制メリットだけでなく、受取時の税制まで含めた「出口設計」が重要になります。退職が近づいた段階で受取方法をシミュレーションし、自身の退職金制度との関係を踏まえて判断することが、これからの資産活用では欠かせない視点といえるでしょう。